研究課題/領域番号 |
16H05031
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
稲葉 睦 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (00183179)
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研究分担者 |
高田 健介 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (40570073)
山崎 淳平 北海道大学, 獣医学研究院, 助教 (20732902)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 膜蛋白質 / 小胞体関連分解 / プロテアソーム / ユビキチン非依存性 / 疾患 |
研究実績の概要 |
小胞体(ER)で合成された膜内在性蛋白質のユビキチン(Ub)非依存性の品質管理(ERQC)とプロテアソーム系蛋白質分解(ERAD)の仕組みは未だに謎である。本研究では、AE1アニオン交換輸送体変異体R664X AE1のUb非依存性ERQC/ERADについて、TRIM蛋白質/SUMO蛋白質が関与する分解機構の仮説を検証することを目的とする。平成29年度は、ERADにおけるR664X AE1のSUMO化とSUMOリガーゼであるTRIM28関与の有無の検証、ならびに初年度で示唆されたCLPTM1の作用を検討した。 HEK293細胞に一過性発現させたR664X AE1は免疫ブロット法/免疫沈降法で抗SUMO抗体と反応せずSUMO付加によるサイズの変化も認められなかった。無細胞タンパク質合成系で合成したR664X AE1、ならびに赤血球膜のAE1をSUMO化酵素(Aos1/Uba2あるいはUbcH9)を用いて修飾することを試みたが、SUMO1、SUMO2、SUMO3のいずれについてもSUMO化は認められなかった。またSUMO化への関与を想定したTRIM28は核に限局した分布を示し、その一過性発現/発現抑制はR664X AE1含量に影響しないことが明らかになった。これらの結果から、TRIM-SUMO系はR664X AE1のERADに関与する可能性を否定するに至った。 CLPTM1の一過性発現はR664X AE1含量をプロテアソーム阻害時のレベルに増加させる一方で野生型AE1の含量には影響せず、逆にその発現を抑制するとERADの亢進が生じた。また、CLPTM1はR664X AE1と結合し、その結合は糖鎖に非依存的であった。これらの結果は、機能未知のCLPTM1がR664X AE1のERADに抑制的に作用するERシャペロンであることを示唆する新しい知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、Ub非依存性であるR664X AE1のERADがUb/SUMOリガーゼとして知られるTRIM28とSUMO化によって生じることを当初の仮説としたものである。初年度の検討は、それに否定的なものであり、本年度は徹底的な検証をまず行い、TRIM-SUMO系の関与を否定するに至った。一方で、初年度の検討で新たに見出されたCLPTM1について、ERでR664X AE1と特異的に結合し、その分解に抑制的に作用するという新知見が得られた。 当初仮説を否定するに至ったが、一方でR664X AE1のERADに影響する新たな分子が判明した。CLPTM1は遺伝性口蓋裂等疾患の原因遺伝子として知られるが、本来の機能はまったく未知である。CLPTM1によるERAD抑制という知見は、Derlins/Sec61トランスロコンやBap31、calnexin等、R664X AE1分解に影響する既知タンパク質との関連等を探ることにより、従来にない特徴をもつR664X AE1のERQC/ERADの仕組みを具体的に解明する有用な手掛かりとなることから上記のとおり判定した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討から、R664X AE1のERADは、Ub化やSUMO化に非依存性の、つまり“分解の目印”が不要な仕組みであることが改めて明らかになったといえる。Ub非依存性ERADはR664X AE1を含め、オルニチン・デカルボキシラーゼ(ODC)等数例の報告があるのみで、その分子機構は依然不明である。ODCの場合はODC-AZ1複合体に単に26Sプロテアソームを加えることで分解が生じることが示されている。ER膜に存在するR664X AE1の場合は、既にトランスロコンであるDerlinsやSec61の必要性、Bap31等のシャペロンとの相互作用が示されているので、今回明らかになったCLPTM1を加え、それらとの相互作用とプロテアソームとのER膜上での相互作用に焦点を充てた解析を進めることが有効と考える。そこで、概ね次の方策をとる。 1.ER膜上でのR664X AE1とDerlins、Sec61、Bap31、CLPTM1等との糖鎖に依存しない複合体形成の検証を行う。 2.ER膜上での分解を実証するために、R664X AE1を発現するER画分を単離し、これと精製26Sプロテアソームの結合、ならびに分解を実証する。
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