研究実績の概要 |
多機能性抗菌ペプチドの統合的解明のために、昨年度からの研究を進展させた。研究のポイントは2点-多剤耐性菌に対する効果とメカニズムおよび癌細胞に対する抗癌活性の検討である。 世界的に蔓延している多剤耐性ブドウ球菌(MRSA, VISA,VRSA)など耐性菌問題に対してのアプローチに加えて、多剤耐性腸球菌をターゲットとして加えた。我々は哺乳類由来、細菌由来の抗菌ペプチドに比べて強い活性を示す節足動物由来の抗菌ペプチド(IP)を見出し、ブドウ球菌における膜破壊のプロセスを明らかにした。一方、腸球菌ではブドウ球菌とは異なり、膜破壊を伴わない。興味深いことに腸球菌はIPに対して殺菌活性を示さないが、増殖抑制を示す。この理由として、IPは直接細菌のDNAに結合し、その結果として増殖抑制を示すことが示唆された。また、細胞膜に対する作用を知るため、Backlight染色によるLive/Deadアッセイのモデル系を作成した。 分子改変ペプチドを含むヒト由来ペプチドによる癌の制御メカニズムにおいてmiRNA による制御機構を明らかにしてきた。抗菌ペプチドの癌細胞に対する作用は細菌への作用と異なり、膜破壊を伴わずに癌細胞の制御系を介してアポトーシスを誘導し、抗癌活性を示した。大腸癌細胞間では同様の応答が見られた。実際、蛍光標識した抗菌ペプチドは膜破壊を伴わずに細胞内にとりこまれた。その局在はミトコンドリアや核ではなく、細胞質であった。本抗菌ペプチド処理は癌細胞にストレス応答を誘導すると考えられる。そのプロセスとしてエクソソームに変化が見られた。エクソソーム量は抗菌ペプチド処理によって増加した。アレイ解析において癌細胞で発現するmiRNAと共通性が見られただけでなく、新たな癌細胞を制御するmiRNAの存在を示唆することができた。
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