研究課題/領域番号 |
16H05037
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西村 亮平 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (80172708)
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研究分担者 |
藤田 直己 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (10554488)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脊髄損傷 / 骨髄間葉系幹細胞 |
研究実績の概要 |
本年度は、ヌードマウスで急性期脊髄損傷モデルを作製し、当研究室で樹立した新規犬骨髄間葉系幹細胞である、犬骨髄脂肪細胞周囲細胞(BM-PACs)の局所および静脈内移植による治療効果を行動学的、組織学的に検証した。脊髄損傷後急性期にBM-PACsを局所投与したところ、投与後からコントロール群と比較して運動機能の改善が認められ、8週後には有意な機能改善が認められた。静脈内移植においては、投与細胞を蛍光標識し、In vivoイメージング装置により、体内動態を追跡した。静脈内投与されたBM-PACsは投与後直後に肺にトラップされたものの、1週間後には脊髄損傷部に到達し、8週後においても、損傷部における蛍光が認められた。運動機能においては、改善傾向が認められたものの、有意な改善は認められなかった。組織学的評価では局所投与群において、残存白質量が増加し、BM-PACsによる組織保護効果が示された。一方、静脈内投与群おいては、同様の組織保護効果は認められなかった。また、これまでの研究から、BM-PACsが炎症性サイトカインに反応し、脊髄損傷に対して強力な組織保護作用を持つ肝細胞成長因子(HGF)を分泌することが明らかになっていることから、HGFが脊髄損傷に対して示す作用として、グリア瘢痕形成の抑制および脊髄軸索の伸長作用を評価したが、局所投与および静脈内投与いずれにおいても、これらの作用は明らかではなかった。以上からBM-PACs移植は脊髄損傷に対し、組織保護作用をもつが、その効果を発揮するには、投与方法や時期、投与細胞数や回数についてさらなる検討が必要である。また、BM-PACsのもつ脊髄保護作用はHGF依存的ではない可能性もあり、今後、HGF分泌に関するより詳細な検討、あるいは炎症抑制に関与する新たな因子の探索が必要と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、マウス脊髄損傷モデルを用いて、BM-PACsの移植効果の検討を行うことができた。また、In Vivoイメージング装置を用い、静脈内投与されたBM-PACsが損傷部に到達することを見出し、このことは、今後BM-PACsを用いた細胞治療における大きな知見であると考えられる。一方で、局所投与、静脈内投与以外に、硬膜内移植群を設定する予定であったが、手技的な問題を解決するに至らなかったため、検討できなかった。また、損傷部に到達したBM-PACsのHGF分泌能における検討が不十分であり、今後検討を加える必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
全身投与されたBM-PACsが脊髄損傷部位に到達可能であることが明らかとなったことから、本年度は静脈内投与による治療効果を中心に検討する。まず、損傷部への到達能力がBM-PACsに特異的なものであるかを明らかにするため、同様の実験を従来の骨髄間葉系幹細胞および犬皮膚線維芽細胞を用いて行い、損傷部への到達能力を比較するとともに、運動機能改善に与える影響を再評価する。また、実際の臨床例では急性期以外の亜急性期および慢性期での応用が望まれるため、亜急性期および慢性期脊髄損傷モデルを作製し、同様の検討を行う。運動機能改善がもたらされた条件においては、BM-PACsのHGF分泌能を解析し、作用機序について検討する。
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