ある種の病態では骨格筋や心筋に線維化や脂肪化がみられる。これらは間葉系前駆細胞を共通の起源にもつ線維芽細胞の増加や脂肪細胞の出現によるものである。申請者は間葉系前駆細胞特異的マーカーとしてCSPG4 分子を同定し、この分子が間葉系前駆細胞自身の分化制御に関与するだけでなく筋細胞に対しても作用している可能性を見いだした。本研究は間葉系前駆細胞ならびにそれを共通の起源にもつ線維芽細胞や脂肪細胞を筋細胞周囲の環境(ニッチ)形成因子と位置づけ、その分化制御機構におけるCSPG4の役割や筋細胞に対するCSPG4 の作用について解明するとともに、ゲノム編集技術を用いて生体筋組織におけるCSPG4 分子の機能を検証することを目的としたものである。 最終年度はまず、初年度に樹立したCSPG4欠損間葉系前駆細胞クローンの分化能についての解析を行った。さらに、CSPG4 KOラットおよびそれを筋ジストロフィーモデルラット(DMDラット)と交配したDMD-CSPG4 KOラットの表現型解析を行った。得られた研究成果は以下の通りである。 1.ラット間葉系前駆細胞クローン2G11細胞において、CRISPR/Cas法によりCSPG4遺伝子への変異を導入したところ、B2G9とC1B3の2つのCSPG4欠損クローンが得られた。これら両クローンにおいてbFGF依存性の脂肪分化能の低下とTGF-betaにより誘導される線維芽細胞への分化の亢進が観察された. 2.CSPG4 KOラットでは同月齢の野生型ラットに比べ、5ヶ月齢において体重の減少と前脛骨筋およびヒラメ筋重量の低下がみられた。 3.DMD-CSPG4ラットではDMDラットに比べ、ヒラメ筋での脂肪化の軽減や線維化の亢進が観察された。一方、前脛骨筋では脂肪化や線維化にCSPG4欠損の影響はみられなかった。
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