研究課題/領域番号 |
16H05042
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
南 直治郎 京都大学, 農学研究科, 准教授 (30212236)
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研究分担者 |
塚本 智史 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 技術安全部, 主任研究員(定常) (80510693)
宮本 圭 近畿大学, 生物理工学部, 講師 (40740684)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マウス初期発生 / 胚性ゲノムの活性化 / 細胞の運命決定 / エピジェネティクス / ヒストン修飾酵素 / クロマチンリモデリング |
研究実績の概要 |
これまでのわれわれの研究から、H3K4のメチル化酵素であるSmyd3とクロマチンリモデリング因子であるChd1がそれぞれ細胞の運命決定に関わる遺伝子Oct4、Nanog、Cdx2の発現を調節していることが明らかになっている。また、Chd1によるこれらの遺伝子の発現調節にはHmgpiという初期胚特異的な転写因子が関与していることを明らかにしたが、本研究ではSmyd3を抑制した胚においてHmgpiの発現量が減少することが明らかになった。また、クロマチン免疫沈降によってHmgpiの転写開始領域にH3K4me3が豊富に存在することも明らかになり、Smyd3によってHmgpiの転写開始点近傍のH3K4がトリメチル化され、それをChd1が認識することでHmgpiの転写が活性化され、細胞の運命決定に関わる遺伝子の発現を制御していることが示唆された。 また、遺伝子発現を負に制御するH3K4の脱メチル化酵素であるKdm5bを受精後に抑制すると、胚盤胞期までの発生やOutgrowth誘導におけるICM由来のコロニー形成率には差が認められなかったが、多能性維持に必要なOct4、Nanog、栄養外胚葉への分化に必要なCdx2の発現が有意に低下していた。これらの結果から、H3K4のメチル化のみならず、脱メチル化が細胞の運命決定に重要な機能を持っていることが示唆された。 次に、遺伝子発現を正に制御するH3K9me3の脱メチル化酵素であるKdm3aを抑制した実験では、胚盤胞期胚までの発生率や形態には異常が見られなかったが、Outgrowth誘導におけるICM由来のコロニー形成率が著しく低下した。また、Kdm3a抑制胚においては栄養外胚葉への分化を誘導するCdx2の発現が著しく増加していることから、Kdm3aが栄養外胚葉への分化を抑制し、多能性の維持に関与していることが示唆された
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスの初期胚において、様々なヒストン修飾が発生を制御していることが徐々に明らかになりつつあるが、まだその詳細な分子機構は分かっていない。28年度の研究では、これまでわれわれが報告を行っているクロマチンリモデリング因子Chd1とH3K4のメチル化酵素Smyd3が関与する初期胚の細胞の運命決定に関わるメカニズムについて解析を行うとともに、H3K4の脱メチル化酵素Kdm5bとH3K9の脱メチル化酵素Kdm3aが初期胚の発生にどのように関与するかについて検討した。上記の研究に関して、研究実績に記載したような結果を得ており、おおむね順調に研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画については、28年度に得られた結果を再検証するとともに、免疫沈降実験で明らかになったHmgpiの転写開始領域におけるH3K4のトリメチル化が確認されたことから、Smyd3ノックダウン胚において、そのメチル化が減少することを確認し、細胞の運命決定に関わるSmyd3、Chd1、Hmgpiの3因子の関連を明らかにし、初期胚における細胞の運命決定に関わるメカニズムの解明に向けた研究に取り組む。また、ヒストン修飾に関わる遺伝子についてさらに解析数を増やすことで、エピジェネティックな修飾が初期胚における胚性ゲノムの活性化から細胞の運命決定のどの経路に関与しているかを詳細に解析する。
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