研究課題
核多角体病ウイルス(NPV)と顆粒病ウイルス(GV)は、バキュロウイルス科に属する昆虫病原ウイルスである。チャノコカクモンハマキ野外個体群に対してAdoxophyes honmai NPV(AdhoNPV)を用いた選抜を行い、人為的にNPVに抵抗性の系統(R系統)を作出した。R系統は、選抜してない感受性のS系統に対して1齢接種では40万倍以上、5齢接種では6万7千倍以上の抵抗性比を示した。AdhoNPVの抵抗性機構として、まずAdhoNPVのウイルス粒子が中腸上皮細胞に結合し融合するかどうかを蛍光標識したウイルス粒子を用いたfluorescence-dequenching assayにより調査した。その結果、R系統はS系統より中腸上皮細胞に対するウイルス粒子の結合能および融合能が有意に低いことがわかった。R系統の中腸上皮細胞におけるAdhoNPV遺伝子の発現は抑えられており、全身でのウイルスDNAの複製も抑えられていた。すなわち、R系統でのAdhoNPVに対する抵抗性は、主に一次感染過程においてウイルスの侵入量の低下とウイルス遺伝子発現の抑制が関与していることが明らかになった。また、R系統はGVおよびAutographa californica MNPVに対しても交差抵抗性を示したが、これらのウイルスの交差抵抗性には、一次感染過程での抵抗性機構は関与していないことが明らかになった。さらに、RNA-Seqにより抵抗性昆虫の体内で発現するウイルス遺伝子を調査した。R系統で発現していたAdhoNPV遺伝子について、定量PCRにより発現量を調べた結果、発現量はほぼゼロであった。
2: おおむね順調に進展している
チャノコカクモンハマキ野外個体群に対してAdoxophyes honmai NPV(AdhoNPV)を用いた選抜を行い、人為的にNPV抵抗性系統(R系統)を作出することに成功した。これを用いたモデル実験により、R系統のAdhoNPV抵抗性機構は、ウイルス粒子の中腸上皮細胞への結合能および融合能の低下によることを明らかにした。これらの内容を学術論文2報にまとめて出版した。次に、R系統はGVおよびAutographa californica MNPV(AcMNPV)に対しても交差抵抗性を示し、今後、抵抗性機構の解明にこれらのウイルスを用いた実験が可能になった。さらに、RNA-Seqにより抵抗性昆虫の体内で発現するウイルス遺伝子がほとんどないことがあきらかになった。このように、1年目の研究計画にある内容がほとんど実施され、次年度以降の基盤となる結果が得られたためおおむね順調であるとした。
交差抵抗性を示したGVおよびAcMNPVを用いてR系統の抵抗性機構を解明する。AcMNPVを用いた組換えウイルスを作製し、これを用いて抵抗性機構を解明する。さらに、RNA-seqの結果を投稿論文にまとめる。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Journal of Invertebrate Pathology,
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10.1016/j.jip.2017.03.003
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10.1099/jgv.0.000684
http://www.tuat.ac.jp/~insect