上昇する大気CO2濃度を植物バイオマス生産能(=CO2回収能)の向上にうまく活用したい。しかし、高CO2環境下における植物生産力の向上は期待よりも貧弱で、“CO2順化”の回避が課題となっている。CO2順化の原因として、葉内の炭水化物の蓄積、窒素欠乏の助長が指摘されてきた。私たちは屋外CO2濃度増加実験で、サツマイモが窒素施肥に依存することなく優れた物質生産能を発揮することを見いだした。この優れた応答を可能にするサツマイモの特性を、1)肥大成長可能なシンク器官、2)エンドファイト細菌による窒素固定能から検証することを目的とする。 もしCO2順化の回避にイモ(肥大成長可能なシンク器官)が重要ならば、サツマイモ同様ジャガイモでもCO2倍増で高いバイオマス生産能を確認できるだろう。そこで、本年度は主にジャガイモを対象に高CO2環境に対する応答を調査した。その結果、リン施肥レベルに依存して、CO2倍増で最大1.5倍のバイオマス増を達成できた。バイオマス生産能は植物個体の積算蒸散量と水利用効率の積で表現できるが、高CO2環境は積算蒸散量をほとんど変化させないで、水利用効率を大きく向上させており、この水利用効率の増加が高CO2環境下でのバイオマス生産増に貢献したことが判明した。いずれのCO2環境下でもリン欠乏状態は気孔コンダクタンスを増加させる一方で、高CO2環境では低CO2環境よりも気孔コンダクタンスは常に低くなった。この気孔コンダクタンスの変動が水利用効率に大きく影響したと推察される。また、リン栄養状態が十分な場合には低CO2環境よりも高CO2環境の方が葉身デンプン蓄積量は多かったが、リン欠乏状態ではCO2環境による違いは小さくなった。葉身のリン濃度とデンプン濃度には負の相関があり、葉身のデンプン蓄積を抑制して“CO2順化”を回避する上で、葉身リン濃度の役割が示唆された。
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