研究課題/領域番号 |
16H05063
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
内藤 哲 北海道大学, 農学研究院, 教授 (20164105)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メチオニン生合成 / ミヤコグサ / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
メチオニンの非天然アナログ化合物であるエチオニンは,δ位のS-メチル基の代わりにS-エチル基を持つ。エチオニンは,様々な酵素反応において,メチオニンと間違えて使われることにより毒性を示し,植物では発芽直後に生育が阻害される。一方,遊離メチオニンを過剰に蓄積する変異株では,外から与えたエチオニンを“薄める”ことで,その毒性を弱めるため,エチオニンに耐性を示す。酵母やシロイヌナズナにおいて,エチオニン耐性変異株を分離することで,遊離メチオニンを過剰に蓄積する突然変異株が得られており,シロイヌナズナにおいてはmto (methionine over-accumulation) 変異と呼んでいる。エチルメタンスルフォン酸 (EMS) で突然変異誘起処理を施したミヤコグサの2世代目種子をエチオニンを含む培地で発芽させ,初期の成長を観察することで,エチオニン耐性変異株の分離を行なった。約8,000粒のM2種子を播種し,五十数株のエチオニン耐性変異株候補を得た。得られた変異候補株の地上部から調製した細胞抽出液について,液体クロマトグラフ(リチウム法)を用いて遊離アミノ酸含量を測定し,野生型株の値と比較した。野生型株との比較を行なう上で,遊離アミノ酸濃度の絶対値の測定には多大の手間がかかるため,スクリーニング段階としては,複数のアミノ酸(グリシン,バリン,およびイソロイシン)とメチオニンの比を比較することとした。その結果,野生型株の数倍から十数倍の遊離メチオニン含量を示すと考えられるmto変異株候補が3株得られた。いずれの株も,メチオニン以外の遊離アミノ酸については,野生型株と大きな違いは見られず,メチオニンの生合成に特異的な変異を持つと期待される。H29年度は,これらの株についての詳細な解析を行なう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既にシロイヌナズナにおいては,mto変異として,mto1 変異 (シスタチオニンγ-シンターゼ遺伝子),mto2変異 (スレオニン合成酵素遺伝子),および,mto3変異 (S-アデノシルメチオニン合成酵素遺伝子) の各変異を報告している。ミヤコグサを用いてmto変異を分離することの意義は,ミヤコグサがマメ科植物であることにある。タンパク質の合成には炭素,窒素およびイオウが必要であり,これらの栄養がバランス良く供給される必要がある。とりわけ,炭素と窒素栄養の比(C/N比)と,イオウ栄養と窒素栄養の比(S/N比)が重要であると考えられているが,含硫アミノ酸であるメチオニンの蓄積に関わる変異株はS/N比に対する応答を考える上で興味深い。我々も,シロイヌナズナの種子貯蔵タンパク質の蓄積において,S/N比が重要であることを報告している。シロイヌナズナでは窒素栄養とイオウ栄養は、ともに土壌から吸収せねばならないが,マメ科植物では,根粒菌を着生させた条件では,言わば窒素栄養の供給が約束されている。したがって,タンパク質合成におけるS/N比に応答した制御が,シロイヌナズナとミヤコグサで異なっている可能性がある。本研究で,ミヤコグサのmto変異株が分離されたことは,こうした研究を行なうための実験材料を初めて提供することとなった。加えて,エチオニン耐性による遊離メチオニン過剰蓄積変異株の分離方法が,広く植物一般に適用可能であることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度の研究で得られた3株のミヤコグサmto変異株候補についての,遺伝的,および生理・生化学的な解析を行ない,その性格付けを行なう。遺伝的解析としては,シロイヌナズナにおいて既に我々が報告しているmto1, mto2およびmto3の,いずれかの遺伝子座の変異であるか否かの解析を行なう。いずれの遺伝子座にも変異を持たず,”mto4” 変異であると考えられた場合は,遺伝的マッピングと次世代シークエンサーによる塩基配列の解析等により,その変異を同定するとともに,シロイヌナズナズナについて,mto4変異株を作出する。いずれの場合であっても,植物の成長・分化の段階を追って,遊離メチオニンの蓄積を解析し,また,種子貯蔵タンパク質の蓄積パターンを解析し,それらをシロイヌナズナにおける同等な変異株との比較を行なう。そのような解析を,通常の栽培条件とS/N比を変えた条件,また,根粒菌の着生の有無で比較することで,イオウ栄養応答における,シロイヌナズナとミヤコグサの異同を明らかにすることができると期待される。
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