研究実績の概要 |
本研究では,「植物の極性分泌に必要な細胞膜上の“極性場”形成機構の解明」を目指す。具体的には, FAB1およびその産物PI(3,5)P2による細胞膜上の“極性場”の形成機構の解明を中心に,オーキシンなど上流のシグナル伝達系からの情報の入力から下流の細胞骨格系,膜交通系など情報出力系までの複数の分子システムを有機的に統合することで,細胞の極性確立とそれに伴う極性分泌のメカニズムを総合的に理解することを目指す。 本年度は,伸長開始時と伸長中の根毛, 発達中の葉の表皮細胞, 気孔開閉時の孔辺細胞においてPI(4,5)P2領域と,PI(3,5)P2領域の変化をリアルタイムに同時観察することで,両イノシトールリン脂質の変化を経時的に捉える。更に,表層微小管の配向変化についてもtagRFP-ML1N*2とGFP-TUB6を同時発現する植物体を用いて,両者の変化をリアルタイム解析を行った。 その結果,根毛の伸長開始時には,PI(4,5)P2が根毛出現部位に細胞膜に現れた後,その両側にPI(3,5)P2が確認された。根毛の伸長時には,根毛先端にPI(4,5)P2,根毛の側面にPI(3,5)P2が局在した。根毛の伸長が停止すると先端のPI(4,5)P2が消失し,PI(3,5)P2が,根毛の先端部分まで確認された。また孔辺細胞では,孔辺細胞形成過程において,メリステモイド細胞の片側の細胞膜に偏在する形でFAB1およびPI(3,5P2が確認された。メリステモイド細胞膜上でFAB1はドット状の局在性を示し,このことからFAB1は細胞膜上でラフトなどのマイクロドメイン構造に局在することが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,根毛細胞上でのPI(4,5)P2とPI(3,5)Pの偏在性が,根毛の形態形成や伸長反応にどのような働きをしているかについての解析を行う。更に,これら二種類のホスファチジルイノシトールの偏在性をモデル化し,数理解析を行うことで,二種類のホスファチジルイノシトールの偏在性によって根毛の特異的な形態や先端成長がシュミレーションできるかの検証を行う。 さらに,Pi(3,5)P2と下流および上流因子との関連性の解析を行う。特に,上流因子はROPファミリータンパク質を中心に解析を行い,下流因子に関しては,微小管および細胞壁合成酵素を中心に共局在解析,相互作用解析,変異体解析などを行う。
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