研究実績の概要 |
当初研究計画では,4年間の研究期間で「植物の極性分泌に必要な細胞膜上の“極性場”形成機構の解明」を目指した。具体的には, FAB1およびその産物PI(3,5)P2による細胞膜上の“極性場”の形成機構の解明を中心に,オーキシンなど上流のシグナル伝達系からの情報の入力から下流の細胞骨格系,膜交通系など情報出力系までの複数の分子システムを有機的に統合することで,細胞の極性確立とそれに伴う極性分泌のメカニズムを総合的に理解することを目指すことを計画した。 これまでの研究成果は,PI(3,5)P2を特異的に標識する蛍光マーカータンパク質GFP(TagRFP)-ML1Nx2を開発し,PI(4,5)P2の蛍光マーカーであるCITRINE-2xPHPLCとの共発現シロイヌナズナ形質転換体を作出することにより,共焦点レーザー顕微鏡によるライブイメージング解析によって伸長開始時と伸長中の根毛のPI(3,5)P2とPI(4,5)P2の動態解析を世界で初めて成功した (1-3)。更に,根毛においてFAB1と特異的に結合する低分子量GTPase, ROP10を同定し,根毛の側面形成時における役割の解明に成功した。また,細胞膜への輸送系の一部がPI(3,5)P2によって制御されていることを明らかにし (9),根毛特異的SNAREであるSYP123がPI(3,5)P2制御下で後期エンドソームのSNAREであるVAMP727と相互作用することにより根毛側面へのキシランなど二次細胞壁成分の分泌に関わっていることを明らかにした 。 上記のように,「イノシトールリン脂質による極性場の形成機構の解明を中心に,シグナル伝達系,細胞骨格系,膜交通系など複数の分子システムを有機的に結合することで極性分泌機構を統合的なネットワークとして理解する」という当初の目的を3年間でほぼ完全に達成した。
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