研究課題/領域番号 |
16H05077
|
研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
濱島 義隆 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (40333900)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | フッ素化 / 不斉合成 / 有機分子触媒 / 相間移動触媒 / アルケン / イオン対 / 水素結合 / C-H結合変換 |
研究実績の概要 |
比較的安価で高い反応性を示すSelectfluorを選択的合成に利用するため、アニオン性相間移動触媒を開発した。これを利用することでアルケンに対する新規不斉フッ素化反応を開発し、幅広いフッ素誘導体を迅速に供給する方法を開発する。このためには、高活性なフッ素化剤および基質が触媒と速やかに三者複合体を形成する必要がある。本研究では、疎水性空間に水素結合ドナーやイオンなどの極性基を配置した多機能性アニオン型相間移動触媒を設計し、「キラル反応場に置かれた高反応性フッ素化剤」を発生させる。 昨年度までに、リンカーで連結したビナフチルジカルボキシラート触媒を合成し、1,2-二置換アルケンを基質とする5-exo環化および6-endo環化をモデル反応として検討し、最高98%の光学収率でフッ素化が進行することを見出した。しかしながら、反応のジアステレオ選択性は低く改善の余地があった。本年度はこの反応の立体化学の制御機構に関する実験を行い、アルケンに対するフッ素原子の付加は極めて選択的に進行するものの、中間体としてフルオロカルベニウムイオンが生成するために、続く求核剤による捕捉が触媒によって制御されてないことを明らかにした。その知見を基に、中間体のコンフォメーションが安定化されることを期待して、立体配座が固定された環状アルケンおよびアリル歪みを期待できる鎖状三置換アルケンを基質として用いたところ、極めて高いジアイステレオおよびエナンチオ選択性でフルオロ環化反応が円滑に進行することを見出した。 さらに不斉C-Hフッ素化を目指し、Selectfluorを用いたC-Hフッ素化のラセミ反応の開発にも取り組んだ。その結果、o-アルキル置換ベンゾフェノンのオルト位C-H結合およびN-アルキルフタルイミドのC-H結合を光照射下に直接的にフッ素置換できる方法を見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の研究計画では、先行研究で開発した相間移動触媒の部分構造の改良による機能の高度化を目指していたが、新たな触媒デザインを着想し、その新規触媒がこれまでにない高い活性を示すことを明らかにした。若干計画を変更したものの、結果的に優れた触媒の開発と新規反応の開発に成功した。この知見をもとに、未開拓のフッ素化法を開拓できると期待される。一方、キラルなフッ素化剤をC-Hフッ素化に適用する研究に関しては、ラセミ反応の開発に止まっている。 全体的には好調であるが、立体選択的C-Hフッ素化への試みが不十分であることから、おおむね順調に進展していると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
フッ素化剤と触媒の複合体が形成する遷移状態の均一性を確保するために対称構造を持つジカルボキシラート触媒を合成した。本年度は、アルケンのフッ素化においてその触媒機能を改善するべく、触媒の水素結合ドナー部位の高度化と触媒の陰イオン部位の検討を続ける。また、触媒の合成法を簡素化する目的で、リンカーの接続方法も検討を行う。 触媒の高度化は順調に進んでいるので、適用できるアルケンや求核剤の種類を検討し、反応の一般性の拡大を図る。特に、スルホンアミドを有する基質のフッ素化は未検討である。スルホンアミド部位は酸性度の比較的高い水素を有し、水素結合を形成する能力が高いと期待できるため優先的に検討し、創薬科学的に興味深い複素環のフッ素誘導体の合成法を開発する。 昨年度の成果より、開発した触媒は基質のアミドと強く水素結合を形成し、アルケンのフッ素化の面選択をほぼ完璧にコントロールできることが分かった。このことは、外部求核剤を触媒と水素結合させることができれば、分子間での求核剤の攻撃が立体選択的に進行するため、分子間反応が選択的に進行する可能性を示唆している。アミドをもつアルケン、フッ素化剤および求核剤による三成分分子間反応を検討する。 最後に、昨年度のC-Hフッ素化の知見を参考に、不斉C-Hフッ素化反応の検討を開始する。
|