研究課題/領域番号 |
16H05081
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
奥 直人 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (10167322)
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研究分担者 |
浅井 知浩 静岡県立大学, 薬学部, 准教授 (00381731)
小出 裕之 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (60729177)
清水 広介 浜松医科大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (30423841)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脳梗塞治療 / リポソーム / DDS / ファスジル / 脳血管障害 / 治療可能時間 / 組織プラスミノーゲン活性化因子 / 虚血性疾患 |
研究実績の概要 |
脳血管疾患は我が国の死因別死亡率第4位、要介護となる原因の第2位であり、そのうち脳梗塞は脳血管疾患の6割を占める。申請者らは脳梗塞時に患部に集積し、脳保護作用を示すDDS ナノ製剤の調製に成功した。臨床においては、血栓溶解剤である組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)の投与が脳梗塞治療に有効であるが、治療可能時間(発症4.5時間以内)の制限などから、適用患者は5%程度に限られる。本研究では臨床応用を見据え、t-PAによる血栓溶解による再灌流を可能とするPhotochemically induced thrombosis(PIT)モデルを用い、DDS製剤によるt-PA の治療時間延長と併用療法による治療効果の増強について検討を行った。脳保護薬としては、ファスジルを使用した。ファスジルはRho associated kinase (ROCK)の阻害により脳保護効果を発揮するが、くも膜下出血後の遅発性脳血管攣縮(スパズム)抑制薬として保険適用されており、脳虚血に伴う血管内皮障害や微小循環障害の改善、t-PAによる脳出血リスクの軽減など、脳梗塞に対する有効性が多数報告されていることから、適用範囲が広く、また脳梗塞に対する臨床試験も行われていたことから、安全性に関しても多くの情報が蓄積されている。リポソーム化ファスジル(Fasudil-Lip)を梗塞下に投与し、その後t-PA処理を行った。脳出血に関与するt-PA処置後の脳障害について脳切片のTTC染色(生細胞が染色され死細胞は白いままである)により確かめた。その結果Fasudil-Lip前投与によりt-PA処理後の脳障害部位が明らかに減少した。すなわちFasudil-Lipが梗塞部位に到達し、脳細胞障害を抑えるとともに、その後の血栓溶解による脳組織ダメージも抑える傾向を示しており、本製剤の脳梗塞治療効果を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは、当初の予定通り、組織プラスミノーゲン活因子(t-PA)により再灌流が可能な一過性大脳動脈内血栓形成モデルである(t-MCAO-photochemically-induced thrombosis(PIT)モデルを用い、t-PAによる再灌流以前に投与された脳保護効果を有するナノ製剤、あるいはt-PA処理と同時にリポソーム製剤を投与することにより脳梗塞治療効果を高めることに成功した。またt-PAの治療可能時間(TTW)を延長させることも明らかとし、これまで時間的制約により血栓溶解療法が受けられなかった患者に本療法を可能にするとともに、治療のアウトカムを向上させうる可能性を示した。また本治療のために、ROCKの阻害剤であり、くも膜下出血後の遅発性脳血管攣縮抑制薬として保険適用されているファスジルを用いることの有用性を示した。さらにリポソーム内水相のカウンターアニオンを変えることにより、流出制御が可能となることも予試験的に見出している。これらのことから当初の計画のうち、薬剤放出性の制御可能な脳梗塞治療用DDS製剤の開発に結び付く基礎データの集積は、今後の検討を含め、十分に可能と考えられる。ただし、PDGF誘導体を用いたリポソーム製剤のアクティブターゲティングと分子標的製剤を兼ね備えたペプチド製剤によるリポソーム修飾に関しては、適合するペプチドを得ることはできたが、実際の使用は生産量やコスト面、結合活性の強さなどから実用化は厳しいと考えており、おおむね順調に研究は推移しているものの、PDGF誘導体の活用に至っていない点で予想以上の成果が得られたと考えてはいない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最大の目標である、脳細胞保護効果のある薬剤の送達技術を用いた脳梗塞治療薬の開発については、かなりの程度は達成でき、また更にエビデンスを蓄積でいると考えている。今後の方針としてはより良い脳梗塞治療のための製剤開発を目指す。すなわちt-PAによる血栓溶解が可能なPITモデルを用いて、t-PAと脳保護効果を有するナノ製剤の併用効果を示し、ナノ製剤の前投与によるt-PA の治療可能時間の延長を確認したので、作用に迫るエビデンスを得るために、PITによる脳梗塞の一定時間後にFasudil-Lipを静脈内投与し、脳梗塞部位でのMatrix Metalloproteinase(MMP)-2および MMP-9の活性を可視化し、Fasudil-LipによるMMP活性化の抑制を検討する。またt-PA処置による出血性のリスクのために、多くの患者が恩恵を受けていないことを考え、ファスジル内封ナノ製剤によるリスクの軽減が可能かを検討する。具体的には脳実質への色素漏出量を指標に、血液脳関門の破綻を可視化し評価する。さらにt-PA誘発脳出血のFasudil-Lipによる抑制効果について、梗塞後に脳出血の有無を評価する。これらの検討を通して、脳梗塞治療薬の開発基盤となるエビデンスを蓄積する。またPITモデルを用いてナノ粒子の動態とファスジルの分布を確認し、有効な脳梗塞治療法の確立に向けたエビデンスを蓄積する。
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