研究課題/領域番号 |
16H05083
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
金澤 秀子 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (10240996)
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研究分担者 |
綾野 絵理 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 研究員 (10424102)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 機能席高分子 / 細胞分離 / バイオ創薬 / 分離精製 / バイオセパレーション |
研究実績の概要 |
本研究では,申請者らが開発した刺激応答性高分子を用いた新しい概念の分離システムを基盤とし,標的選択性を有した機能性高分子の開発により,治療に必要な細胞の特性を保持したまま分離する技術,選択的細胞クロマトグラフィーシステム及びバイオ創薬のためのタンパク分離精製システムについて検討した。 温度応答性高分子ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)は下限臨界溶解温度(Lower Critical Solution Temperature; LCST)を境に低温側では親水性に、高温側では疎水性に変化する性質を持つ。外部温度を変化させることにより担体表面の性質を制御し、目的細胞の分離精製を行った。温和な条件下での細胞分離が可能となるため、活性維持や工程の簡略化への貢献が期待できる。このカラムを用いて細胞表面を修飾せずに分離する細胞分離システムを構築した。温度応答性高分子を修飾したビーズを充填したカラムを用いることで、温度変化による細胞の保持、溶出が可能であった。また、修飾する温度応答性高分子中に含まれる正電荷のモノマーの含有量、高分子の修飾構造により、細胞の溶出挙動を制御し、さらには細胞種による溶出挙動の差を利用した細胞分離の可能性が得られた。 温度応答性高分子を修飾した充填剤表面の性質を温度により変化させることで溶出制御を行い、さらに溶出溶媒として水系溶媒を用いることで、温和な条件での抗体精製の可能性について検討した。抗体医薬との吸着を強くするために、陰イオン性モノマーを導入した高分子修飾充填剤を用いた。抗体医薬作製時における培養系由来の主夾雑物を想定したウシ血清アルブミンと抗体医薬(セツキシマブ、リツキシマブ等)を温度制御により、有機溶媒を用いず生理的食塩濃度に近いリン酸バッファーのみで溶出するという温和な条件で分離・精製することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
温度応答性ビーズの設計と抗体医薬の吸着挙動評価:温度応答性高分子Poly(N-isopropylacrylamide)と疎水性モノマー、親水性モノマーとの共重合体を架橋して重合させたハイドロゲル表面を持つ充填剤を作製した。作製したタンパク精製カラムを抗体医薬であるセツキシマブおよびリツキシマブを用いて評価した。高温で夾雑物を除去し、低温にして抗体を回収した。抗体の凝集体評価はサイズ排除クロマトグラフィーによって行った。陰イオン性モノマー導入量を増加させる溶出が遅くなり、溶出溶媒濃度増加させると溶出が早くなったことから、充填剤表面と抗体の間で静電的相互作用が働いていることが示された。また、高温時の方が低温時と比較して静電的相互作用が強く働くことが明らかになり、温度によって充填剤表面の電荷密度を制御し、抗体の溶出挙動を制御可能であると示唆された。抗体医薬であるセツキシマブおよびリツキシマブとウシ血清アルブミンを、pH7.0の水系溶媒を用いて温度変化のみで吸着・脱離することができた。また脱離後の抗体を評価した結果、凝集体を形成せずに脱離を行えることを確認した。 温度応答性シリカビーズ(粒径: 75-150μm)を固相抽出カラムに充填し、ヒト骨髄性白血病細胞(HL-60細胞)、ヒト急性T細胞性白血病細胞(Jurkat細胞)を負荷し、溶出挙動を観察した。カチオン性モノマーであるDMAPAAmを導入した高分子を修飾した充填剤では、37℃で両細胞の保持が確認できた.一方、電荷のない高分子カラムでは、ほとんど保持されない傾向が確認でき、細胞保持は静電相互作用によるものであると示唆された。本研究で作製したカラムは温度変化により細胞の保持・溶出を制御でき、細胞溶出挙動の差による細胞分離が可能であった。
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今後の研究の推進方策 |
1.タンパクの不可逆的な会合凝集・変性を防ぎ、回収率を向上させ、溶媒や廃液のコストを削減し、安全性と信頼性の高い方法を確立する。 2.複数のリガンドを用い分離条件の最適化と回収率向上について検討する。特定の分子を認識するリガンドの導入により、選択的に分子を識別する高分子の設計が可能である。本計画で開発する細胞分離解析システムの有用性の確認に向け、細胞との弱い相互作用、ペプチドリガンドを導入できる温度応答性ポリマーの合成を目指す。 3.細胞の大量培養を行い、得られた細胞抽出液から本研究により開発したアフィニティー用精製カラム(リガンドと機能性高分子を結合させた担体をカラムに充填したもの)を用いてリガンド結合タンパク質をアフィニティー精製する。 4.数種類の腫瘍細胞等の培養細胞を用いて細胞特性に合わせた分離精製について検討する。
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