近年、自然免疫系が、病原体成分だけでなく自己成分により影響を受け、慢性炎症疾患や、ガン転移、生活習慣病などとも深い関わりがあることが明らかとなってきた。したがって、それらの疾患の理解と、それを標的とした創薬を考える際には、自己成分による自然免疫系調節機構の理解が不可欠である。NF-κB経路は自然免疫を制御する中心的なシグナル伝達系である。研究代表者は、ショウジョウバエ個体と培養細胞、並びにヒト・マウス培養細胞の系において、NF-κB経路を調節する新規cGMP経路を明らかにしている。そこで本研究では、ショウジョウバエとヒト・マウス培養細胞の系のそれぞれの利点を利用して、新規cGMP経路によるNF-κBシグナルの調節機構を明らかにする。加えて、ショウジョウバエにおいてcGMP経路がどのような局面で活性化され、自然免疫系を調節するのかを明らかにする。これにより、自己成分によりどのように自然免疫系が調節されているのか、その分子機構の理解が進むことが期待できる。今年度は、新規cGMP経路に関わることが既に明らかとなっているプロテインホスファターゼ2A(PP2A)に着目して研究を進めた。まず哺乳動物の系(ヒト培養細胞)で、PP2Aの脱リン酸化活性を阻害するオカダ酸の影響を調べたところ、新規cGMP経路によるNF-κBシグナルの増強が阻害されることが分かった。この結果は、新規cGMP経路によるNF-κBシグナルの増強にPP2Aの脱リン酸化活性が必要であることを示唆している。そこで、ショウジョウバエの培養細胞系で同じくオカダ酸の影響を調べたところ、ショウジョウバエにおいても、新規cGMP経路によるNF-κBシグナルの増強にPP2Aの脱リン酸化活性が必要であることを示唆され、新規cGMP経路によるNF-κBシグナルの増強におけるPP2Aの役割が種を越えて保存されていることが示唆された。
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