研究課題
【背景・目的】申請者はこれまで、オーファンGPCRのスクリーニングから、リゾホスファチジルセリン(LysoPS)特異的に応答するGPCRとして、LPS2/P2Y10、LPS2L/A630033H20Rik、LPS3/GPR174を同定した。これら受容体はいずれも免疫系組織に高発現している。本研究では、これらLysoPS受容体の機能を明らかにすることであるが、申請者はこれまでLPS2、LPS3のシングルKOマウスを作製・解析した。しかし、、通常飼育下ではこれらのKOマウスは顕著な表現型を示さない。免疫系組織においてこれら3つの受容体は、いずれも、特に、B細胞に高発現すること、共通してG13に共役する。このことから、3つの受容体が重複した機能を有することが想定された。そこで、本研究では受容体の複数欠損マウスの作製を試み、LysoPS受容体の生体内における機能を解明することを目的とした。【方法・結果】受容体多重欠損マウスの作製にはCRISPR/Cas9システムを用いた。最終的に、LPS2/2L二重欠損(DKO)およびLPS2/2L/3三重欠損(TKO)マウスを作出した。次に、3つの受容体の発現がともに高いB細胞に着目した。各受容体欠損マウスに、抗原を免疫し、血中抗体価と所属リンパ節の肥大を調べた。その結果、TKOおよびDKOマウスでは野生型マウスと比較し、有意な抗体価の上昇が認められた。一方、LPS2又はLPS3シングルKOマウスでは顕著な差は認められなかった。また、DKOマウスの抗原投与時の所属リンパ節は肥大化し、リンパ球数が増加していた。【考察】本研究によりLPS2/2Lが、抗原投与時のB細胞の数を負に制御することが示唆された。現在、In vitroにおいて、LysoPSはB細胞の接着を制御することも見出しており、今後の研究で、LysoPSシグナルが細胞接着を抑制的に制御するメカニズムを解析する必要がある。
2: おおむね順調に進展している
これまで、自己免疫疾患モデル動物としてのFas欠損、MRL-lpr/lprマウスをバックグランドとして、リゾホスファチジルセリン受容体の欠損マウスの機能を解析し、リゾホスファチジルセリンシグナルが免疫系を負に制御することが明らかになってきていた。しかし、通常のマウスにおいては表現系がほとんど得られていなかった。本年度、LPS2/LPS2LのダブルKOマウスLPS2/LPS2L/LPS3のトリプルKOマウスを用いることで、通常のマウスバックグランドの免疫反応におけるリゾホスファチジルセリンシグナルの意義が明らかにすることができた。この成果により、新規リゾホスファチジルセリンの免疫における機能の一端を明確にすることができたため、「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
本年度までの研究で、リゾホスファチジルセリンシグナルがB細胞の機能に対して抑制的に作用することが明確となってきた。以下が今後の課題である。・リゾホスファチジルセリンシグナルがB細胞機能を抑制するメカニズム・B細胞以外の免疫系細胞(例えば、受容体発言の多いT細胞、NK細胞など)におけるリゾホスファチジルセリンシグナルの機能・受容体をモジュレートするリガンド(作動薬、拮抗薬)の開発
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