炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease; IBD)の発症とオートファジー関連遺伝子の一塩基多型の相関が報告されているが、その発症機構には不明な点が多い。そこで本研究では、大腸上皮細胞特異的オートファジー欠損マウス(cKOマウス)を作製して、大腸炎発症におけるオートファジー欠損の影響を解明するとともに、腸内細菌バランスの正常化に基づくIBD新規治療法開発の分子基盤を確立することを目的とする。本年度は特に、以下の研究項目に取り組んだ。 (1) 抗菌ペプチドの抗菌活性の解析 本研究で我々は、大腸上皮細胞特異的オートファジー欠損マウス(cKOマウス)において、大腸上皮細胞で産生される特定の抗菌ペプチド(抗菌ペプチドA)の産生が顕著に低下するとともに、腸内細菌バランスが異常となり、大腸炎が顕著に増悪化することを見出した。そこで、抗菌ペプチドAの組換え体を作製し、腸内細菌に対する抗菌活性のin vitroにおける検討を行った。その結果、腸内細菌に対する濃度依存的な抗菌活性を見出した。抗菌ペプチドAはRNase活性を持つ抗菌ペプチドである。そこで、そのRNase活性と抗菌活性の関連性を点変異体の作製により解明を試みたところ、RNase活性が抗菌ペプチドAの抗菌活性の発現に関与することを見出した。 (2) 抗菌ペプチドのDSS誘発性大腸炎に及ぼす効果の検討 次に、組み換え型抗菌ペプチドAをDSS誘発性大腸炎発症マウスに直腸内投与し、抗炎症効果を検討した。その結果、抗菌ペプチドAを投与することにより、DSS誘発性大腸炎が増悪化することが分かった。以上の結果より、抗菌ペプチドAは、DSS誘発性大腸炎抑制作用を持つ腸内細菌に対して抗菌活性を発揮する可能性が考えられた。
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