研究課題
本研究は、ヒト細胞でヒストンH4が高アセチル化修飾(H4K5acK8ac)されたクロマチン領域を1ヌクレオソーム分解能で検出する新規技術を開発し、疾患細胞のエピゲノム異常の形成機構を理解することを目的とする。本年度は、昨年度までに取得した複数のヒト細胞株のヒストンH4高アセチル化のクロマチン免疫沈降シークエンス(ChIP-seq)データと遺伝子発現プロファイルについてバイオインフォマティクス解析を行った。昨年度までに検証したヒストンH4K5acK8ac認識抗体をChIP-seq技術に適用してヒト肺がんH23細胞株のエピゲノム地図を解析した結果、遺伝子のエンハンサー領域とプロモーター領域の両方に分布しており、既知のエピゲノム修飾の中ではヒストンH3のアセチル化修飾(H3K27ac)の局在と最も一致度が高いことが判明した。次にアセチル化ヒストンに結合するBETファミリータンパク質の一種であるBRD2とH4K5acK8acまたはH3K27acとの共局在を解析した結果、BRD2との共局在はH4K5acK8acの方がH3K27acよりも高く相関することを見出した。また高アセチル化と遺伝子発現の相関関係を行った結果、遺伝子の転写産物量とH4K5acK8acのChIP-seqシグナルが強い正の相関にあることを見出した。さらに、BETファミリータンパク質に対する阻害剤をヒト肺がん細胞株に投与してもヒストンH4の高アセチル化は影響を受けず、この修飾が極めて頑強ながんエピゲノムの新規マークであることを突きとめた。以上の結果から、BETファミリータンパク質に対する阻害剤を単剤で投与した場合、BETファミリータンパク質に依存するがんについては一時的な治療効果が期待できるが、その背景にある悪性のエピゲノムは根治されていないことが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
当初立案していた計画の主要内容について予想以上に研究が進展し、論文発表に至ったため。
当初計画の主要内容の解析と論文発表を完了したため、肺がん以外の疾患細胞におけるエピゲノム高アセチル化修飾の解析を進め、異なるがん間での共通および特異的な制御分子機構の解明をめざす。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Molecules
巻: 23 ページ: 1538~1538
10.3390/molecules23071538
Epigenetics
巻: 13 ページ: 410~431
10.1080/15592294.2018.1469891
RSC Advances
巻: 8 ページ: 36895~36902
10.1039/C8RA07879C
https://www.bdr.riken.jp/jp/research/labs/umehara-t/index.html