研究課題
本研究は、睡眠・覚醒サイクルや摂食の調節メカニズムを制御するオレキシン神経系の真の機能解明を目的として、スルホンアミド構造とモルフィナン骨格を活用したOX1R選択的作動薬の薬物設計と合成、ならびにオレキシン受容体のin vivo薬理作用解析を目指し研究を行っている。本年度は、①「OX2R作動薬からOX1R作動薬への活性転換」と②「モルフィナン骨格を有する新規OX1R選択的拮抗薬の開発」、③「OX2R選択的作動薬のナルコレプシーマウスに対する薬理作用」について検討を行った。①OX2R作動薬からOX1R作動薬への活性転換:報告者らが見出したOX2R選択的作動薬YNT-185を基盤として、OX1R/OX2R選択性に対して敏感な構造因子の特定を目指し、構造活性相関研究を行った。その結果、OX2R選択性を減弱させる構造因子を見出し、種々の置換基最適化によりOX1Rに対して21 nMで作動活性を有する誘導体を見出した。②モルフィナン骨格を有する新規OX1R選択的拮抗薬の開発:最近報告者らは、独自に保有するオピオイド化合物ライブラリーを用いたオレキシン受容体活性スクリーニングを実施したところ、κ受容体作動薬であるナルフラフィンがOX1R選択的拮抗作用(IC50 = 800 nM)を示すことを見いだした。ナルフラフィンの置換基最適化を行うことで、オピオイド活性を有さずOX1R選択的拮抗活性(IC50 = 2.1 nM)を有するモルフィナン誘導体を見出した。③OX2R選択的作動薬のナルコレプシーマウスに対する薬理作用:OX2R作動薬YNT-185投与が後天的オレキシン欠損マウスに与える影響を脳波解析システムにより測定した。その結果、YNT-185を脳室内および腹腔内投与したところ、顕著にナルコレプシー症状を抑制する結果を得た。この効果は、オレキシン受容体欠損マウスでは確認されなかった。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究は、①OX2R作動薬からOX1R作動薬への活性転換および②OX1R拮抗薬から作動薬への活性転換という双方向性の手法を用いてOX1R作動薬開発を行い、③in vivo行動薬理学実験によるオレキシン受容体の機能解明を目指し研究を進めている。これまでに①において、OX2R選択性を減弱させる構造因子の特定に成功し、OX1Rに対してYNT-185と同等の作動活性を有する誘導体を見出すことに成功した。②においては、他に例の無い独自な分子デザインにより、モルフィナン骨格を有するOX1R拮抗薬の創製を達成し、構造活性相関情報についても十分蓄積されつつある。また、③について、計画段階において見出したOX2R作動薬YNT-185を用いた行動薬理学実験にも成功し、in vivoにおけるOX2Rの薬理作用を調査することに成功した。これらの結果は、本研究の最終目的であるOX1Rのin vivo薬理作用解明に繋がる重要な発見である。
次年度は①「モルフィナン骨格を基盤としたオレキシン受容体作動薬の薬物設計と合成」と②「本年度に見出した非選択的作動薬のin vivo薬理試験」について研究を行う。①モルフィナン骨格を基盤としたOX1R作動薬の薬物設計と合成OX1R拮抗薬から作動薬への活性転換のための薬物設計として、まず、OX1R拮抗活性を有するナルフラフィン誘導体の構造中に、OX2R作動薬中の共通構造を導入した化合物の合成を行う。また、ナルフラフィン側鎖部位の長さが短いことも考えられることから、ナルフラフィン側鎖をより延長した化合物も合成する。合成したサンプルについては、本年度と同様にin vitro活性試験を行い、作動活性と拮抗活性の変化を解析する。②本年度に見出した作動薬のin vivo薬理試験本年度に開発したOX1R/OX2R作動薬を用いた睡眠覚醒機能およびナルコレプシー病態におけるOX1Rの役割を神経薬理学的に解析する。行動薬理実験としては、作動薬をマウスの脳室内あるいは全身性に投与し、誘発される睡眠覚醒リズムまたはナルコレプシー症状の変化を脳波解析システムにより測定し、本年度得られたOX2R作動薬との薬理作用の差を調査する。
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