研究実績の概要 |
1)低栄養選択的細胞毒性を示すビグアニド系化合物の作用機構の解析を行った。本化合物は、グルコース及び血清欠乏培地に於いて、特異的にcMycタンパク発現及び小胞体ストレス応答(UPR)の下流標的であるATF4とGRP78を抑制した。さらに、小胞体関連分解(ERAD)成分のうち、タンパク質品質管理の調節因子のHerp, GRP78, GRP94及びOD9タンパク質の発現を抑制することが明らかになった。以上により、小胞体ストレス応答の破綻によって細胞死を誘導することが示唆された。これまでに、本化合物がミトコンドリア呼吸を阻害することを明らかにしていることから、低栄養・低酸素というがん微小環境において、好気呼吸阻害と同時にHIF-1シグナル阻害によって解糖系も阻害し、加えて栄養枯渇に対するUPRシグナルも抑制することによって、アポトーシスを誘導していることが示唆された。2)本化合物の標的タンパク質を同定するための光反応性プローブの合成に取り組み、有用中間体まで到達した。3)昨年までに開発した高感度二価鉄検出蛍光プローブによる化学ライブラリースクリーニングの結果、二価鉄を有意に誘導する有望候補化合物を同定した。4)フォロトーシスに着目した難治性がん治療法の開発に取り組み、artesunateおよびアルテミシニン誘導体がRAS変異細胞のH1080に特異的な細胞毒性を示し、この作用は鉄キレ-ターで抑制された。また、artesunateにより細胞内の二価鉄が有意に誘導されていることを突き止めた。一方artesunateは、RAS正常細胞のHera細胞に対しては全く効果を示さなかった。この結果、アルテミシニン誘導体はフェロトーシス誘導作用を有することが明らかになった。
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