研究課題/領域番号 |
16H05105
|
研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
旦 慎吾 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター 分子薬理部, 部長 (70332202)
|
研究分担者 |
赤塚 明宣 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター 分子薬理部, 研究員 (30649364)
大橋 愛美 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター 分子薬理部, 主任研究助手 (50727427)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ケミカルバイオロジー / ケミカルジェネティクス / 機能ゲノミクス / インフォマティクス / 脆弱性 / 分子標的 |
研究実績の概要 |
がんの新たな治療標的とその阻害剤を見出すために、ケミカルジェネティクスによるアプローチとして、当部でこれまでに取りためた数千種類の抗がん物質のJFCR39パネル感受性データを用いて、一部のがん細胞にのみ奏功しその他の細胞には影響しない物質を複数同定した。その1つとして見出したゲフィチニブは、EGFR遺伝子に活性化変異を持つ肺がんに奏功することが知られるが、意外にもEGFRの遺伝子変異を有さず、タンパク質レベルでもまったく発現していない肺がん細胞株に奏功することがわかった。JFCR39のオミックスデータを照会したところ、本細胞株はErbB4タンパク質を過剰発現しており、ゲフィチニブによる増殖抑制に伴いErbB4の脱リン酸化が認められた。本細胞株はErbB4を発現ノックダウンした際に特異的に増殖が抑制されたことから、ErbB4が本細胞株のアクショナブルな標的であると考えられる。一方、白血病治療に用いられる代謝拮抗剤がいくつかの癌腫由来細胞株に著効することを見出し、薬剤抵抗性に高い関連を示す一塩基変異(SNV)を抽出した。薬効が高い細胞株はすべて当該SNVが野生型ホモであったが、片アリルまたは両アリルに変異型を有する細胞株はすべて抵抗性を示した。このSNVと薬剤感受性の因果関係を調べるため、CRISPR/Cas9による変異導入株の構築を進めた。 一方、機能ゲノミクスによるアプローチとして、バーコードshRNA発現レンチウイルスライブラリーを用いた実験を開始した。具体的には、特定の細胞株にレンチウイルスを感染させた5日後を起点に、一定期間の培養を経て増減するshRNAを同定するとともに、ゴルジ機能阻害剤やチロシンキナーゼ阻害剤存在下の培養で増減するshRNAの解析を進めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では「一部のがん細胞に選択的な抗がん効果を示す」薬剤またはshRNAをプローブに、がん治療の重要な新規分子標的候補とその治療薬を同定することを目的としている。ケミカルジェネティクスによるアプローチとして、JFCR39がん細胞パネルデータから一部のがん細胞にのみ奏功しその他の細胞には影響しない物質として、チロシンキナーゼ阻害剤ゲフィチニブと代謝拮抗剤Aを含む既知の抗がん剤や新規抗がん物質を抽出し、それぞれについてその分子メカニズムや感受性予測しうる分子の解析が順調に進んでいる。ゲフィチニブについて、EGFR遺伝子に活性化変異がなく、発現も認められない肺がん細胞株に著効を示したのは、本細胞株で過剰発現をしているErbB4を阻害することに起因することを明らかにした。また、代謝拮抗剤Aについては、奏功しないとされた癌腫細胞の一部で良好な効果を示すこと、その感受性に強い関連を示す一塩基変異を同定した。また、これら2剤以外の既知抗がん剤や新規抗がん物質についても解析を進めており、さらなる成果が期待される。この解析により、薬剤の直接ターゲットおよび感受性を規定する分子メカニズムが明らかにできれば、新たな分子標的薬の開発に加え、既存薬の適応拡大のためのバイオマーカーにも利用できる可能性がある。 一方、バーコードshRNA発現レンチウイルスライブラリーを用いた実験については、初年度に実験条件の最適化に手間取ったものの、本年度より、一定期間の培養後に消失ないし増加するshRNAの解析を進めている。また、ゴルジ機能阻害剤やチロシンキナーゼ阻害剤との合成致死を起こすshRNAや、逆に薬剤耐性になるshRNAのスクリーニングにも着手した。このように、概ね順調に進んでいると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
上記のクライテリアを満たすものとして見出してきた薬剤やshRNAに着目し、研究を進めていく。まず、ゲフィチニブについて、本年度までにErbB4に依存した増殖様式を示す肺がんに奏功すること、増殖抑制に伴い、ErbB4の脱リン酸化が起こることを示した。来年度は、実際に生化学的にErbBファミリーの受容体チロシンキナーゼ(RTK)に対する阻害効果を確認するとともに、本細胞株に対しゲフィチニブより強い抗がん活性を示した他の化合物についてもErbB4およびErbBファミリーRTKに対する阻害効果について解析を進める。また、代謝拮抗剤の感受性に高い関連を認めた一塩基変異(SNV)については、引き続き複数の野生型ホモの感受性株に対してCRISPR/Cas9を用いた変異導入を進め、当該遺伝子のミスセンス変異と抗がん活性の因果関係を明らかにしていく。以上に加え、一部のがん細胞株に選択的に抗がん効果を示した化合物について、抗がん効果と相関の高い発現量を示した遺伝子の抽出を行い、それらについてRNA干渉を利用した発現ノックダウンにより抽出された遺伝子の機能解析を進めていく。一方、バーコードshRNA発現レンチウイルスライブラリーを用いた実験については、本年度に引き続き、一定期間の培養後に消失ないし増加するshRNAの解析に加え、注目する抗がん剤との合成致死を起こすshRNAや、逆に薬剤耐性になるshRNAのスクリーニングを進めていく。以上により、がん細胞特異的抗がん効果への分子機構を明らかにし、それに基づいた新たながん分子標的治療法を提案したい。
|