研究課題/領域番号 |
16H05108
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
原 俊太郎 昭和大学, 薬学部, 教授 (50222229)
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研究分担者 |
佐々木 由香 昭和大学, 薬学部, 助教 (40635108)
桑田 浩 昭和大学, 薬学部, 講師 (80286864)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 環境化学物質 / 過酸化脂質 / プロスタグランジン / 脂質代謝 / 毒性軽減 |
研究実績の概要 |
本研究では、化学物質曝露により生じる脂質組成の変化・生理活性脂質の産生に注目し、これらの変化を網羅的に解析するトキシコリピドミクスを展開することにより、環境化学物質の新たな毒性軽減因子の探索を行うことを目的としている。本年度は以下の点を明らかにした。 1. アシルCoA合成酵素4(ACSL4)に関する解析:過酸化脂質除去能をもつPHGPxを阻害するとフェロトーシスと呼ばれる細胞死が誘導されるが、マウス骨髄から調製したマクロファージをPHGPx阻害剤RSL3で処理した際に誘導される細胞死が、ACSL4の欠損により抑えられることを見出した。ACSL4欠損マクロファージでは高度不飽和脂肪酸をもつ膜リン脂質が減少しており、これがRSL3耐性の一因となっていると考えられた。一方、野生型マウスでは生死に影響を及ぼさない濃度のリポ多糖の投与によってACSL4欠損マウスに全身性炎症を引き起こした場合、プロスタグランジン(PG)産生の亢進により、およそ4割のマウスが死亡することも見出した。ACSL4は化学物質の毒性発現において、毒性増強・軽減のいずれにも働きうる可能性が示唆された。 2. PG産生酵素に関する解析:あらかじめ感作した後、マウス耳介皮膚に塩化ニッケルを塗布したところ、ジニトロフルオロベンゼンを用いた場合と同様に、塗布2~3日目に、PGE2産生の増加とともに、耳介の肥厚が認められた。さらにこの肥厚は、野生型マウスと比較し、PGE2産生を担う膜結合型PGE合成酵素(mPGES)-1欠損マウスでは抑制される傾向を示し、mPGES-1阻害剤が幅広くアレルギー性接触皮膚炎を軽減させる可能性が示唆された。この反応におけるPGI2合成酵素の関与についても現在検討中である。PGI2合成酵素については、膀胱化学発がんの軽減因子として働くことを見出しており、この機構についても現在検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
化学物質の中には酸化ストレスを惹起することにより特定臓器に毒性を示すと考えられるものが少なくないが、本年度は、過酸化脂質のリモデリングに関与するACSL4を阻害すると、酸化ストレスによる細胞毒性を抑える可能性があることを見出すことができた。この点においては順調に研究が進んだが、今後は実際にカドミウムやメチル水銀といった化学物質の毒性を、ACSL4の阻害(あるいは欠損)が抑えるか検討する必要があると思われる。さらにACSL4がPG類産生の制御を介し、化学物質の毒性発現に関与する可能性も示唆された。ACSL4欠損マウスに様々な化学物質を曝露した際の脂質組成の変化、生理活性脂質産生についても検討する必要がある。 さらに、ニッケルによるアレルギー性接触皮膚炎におけるリピドミクスも開始することができた。一方、様々な発がん性化学物質を用いた解析も現在進行中であるが、化学発がんの過程には多くの時間が必要なため、未だ十分な解析は進んでいない。今後は、発がん性を示す化学物質曝露時のリピドミクスをさらに進展させる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように、今後はまず、カドミウムやメチル水銀といった、酸化ストレスを惹起することにより特定臓器に毒性を示すと考えられる化学物質を、ACSL4欠損マウスに曝露し、野生型マウスに曝露した際と脂質組成の変化、生理活性脂質産生がどのように異なるか、ACSL4欠損がこれらの化学物質の毒性を抑えるか、検討を行う。ACSL4以外のPHGPxやiPLA2γといった過酸化脂質の除去に関わる脂質代謝酵素の欠損マウスについても同様の解析を行い、さらに、対象とする化学物質も順に増やしていく計画である。 また、接触性皮膚炎等の炎症反応を惹起したり、化学発がんを誘導したりする化学物質については、リピドミクスにより、その毒性発現にPG類の産生が関わるか検討するともに、各種PG合成酵素の阻害剤やPG受容体の作動薬・拮抗薬が化学物質の毒性を軽減するか、解析する。
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