研究課題/領域番号 |
16H05109
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
青木 康展 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康研究センター, フェロー (20159297)
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研究分担者 |
續 輝久 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 客員教授 (40155429)
大野 みずき 九州大学, 医学研究院, 助教 (70380524)
野原 恵子 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康研究センター, フェロー (50160271)
松本 理 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康研究センター, 研究調整主幹 (60132867)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 変異原物質 / 酸化ストレス / 発がん / リスク評価 / 体内変異原性 |
研究実績の概要 |
酸化ストレスによる腫瘍発生に関連した突然変異のホットスポットを同定するために、次の実験を行った。 1)DNAミスマッチ修復酵素であるMsh2遺伝子の欠損マウスと突然変異検出用遺伝子導入マウスgpt deltaマウスを交配したMsh2-KO gpt deltaマウスに酸化剤である臭素酸カリウムを1.5 g/Lの用量で4週間経口投与し、小腸における突然変異を解析した。その結果、Msh2欠損により突然変異体発生頻度は野生型マウスに比べて約9倍上昇したが、さらに、臭素酸カリウムを投与しても突然変異体発生頻度の上昇は見られなかった。しかしながら、変異のスペクトルを解析したところ、臭素酸カリウムを投与したMsh2-KO gpt deltaマウスには、A塩基の連続配列での一塩基フレームシフト変異が高頻度に検出された。 2)他の突然変異検出用遺伝子導入マウスrpsL Tgマウスから作出したMsh2-KO rpsL Tgマウスに、同様に臭素酸カリウムを投与し、小腸に誘発される突然変異頻度および変異スペクトルを解析した。Msh2遺伝子欠損マウスの自然突然変異頻度は野生型マウスに比べ約20倍高く、酸化剤投与によりさらに上昇した。変異のスペクトルを解析したところ、G:CからA:Tへの一塩基置換、および上記1)と同様のA塩基の連続配列での一塩基フレームシフト変異が高頻度に検出され、酸化剤投与でこれらの変異がさらに上昇した。この一塩基フレームシフト変異は酸化ストレス誘導による突然変異ホットスポットを形成している可能性がある。 3)自然に近い条件下で発生した酸化ストレスによる腫瘍発生を解析するために、硫酸デキストラン投与大腸潰瘍モデルマウスに2 g/Lの用量で4週間臭素酸カリウムを経口投与した。しかしながら、大腸、小腸ともに腫瘍の発生は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Msh2-KO gpt deltaマウス、および当初の計画にはないMsh2-KO rpsL Tgマウスへの臭素酸カリウム投与による突然変異ホットスポットの解析は計画通り進捗し、新たなホットスポットが同定できる見通しがついた。しかし、デキストラン硫酸ナトリウムによる炎症惹起下での臭素酸カリウム経口投与によっても大腸や小腸に腫瘍は発生せず、計画通りに進めることは出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
臭素酸カリウム(酸化ストレス誘導剤)を1.5 g/Lの用量で4週間飲水経口投与したMsh2-KO gpt deltaマウスとMsh2-KO rpsL Tgマウス、および野生型マウスから採取した小腸上皮組織のゲノムDNAを抽出し、体内で発生した突然変異を解析する。100クローン以上の変異体gpt遺伝子のDNA塩基配列を決定する。ミスマッチ修復欠損、あるいはミスマッチ修復欠損下での酸化ストレス誘導剤投与により、GAA配列中のG塩基(406番塩基)の‘G→T塩基置換’のほか、どの様な突然変異のホットスポットが出現するかを明らかにする。 これまでの知見と合わせ、突然変異検出用遺伝子導入マウスを用いて検出した酸化ストレスにより誘導された突然変異ホットスポットと、腫瘍のゲノムDNA上の突然変異ホットスポットとの共通性を明らかにする。その知見を基に、酸化ストレスで誘導されるホットスポットを含む突然変異が、どのような様式で遺伝子の機能を阻害し発がんに繋がるのかを考察する。
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