研究課題/領域番号 |
16H05111
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
玉井 郁巳 金沢大学, 薬学系, 教授 (20155237)
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研究分担者 |
若山 友彦 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (70305100)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 相互作用 / トランスポーター / 消化管吸収 / 食品 / 薬物動態 |
研究実績の概要 |
消化管で機能するトランスポーターに対する食品、特に嗜好飲料である果汁等の影響について検討を進めた。新たな発見として、果汁中に含まれるナノ粒子がトランスポーターの発現と活性に影響することを見出した。従来、食品の栄養素としての作用は、食品中に存在するタンパク質などの含有高分子であっても管腔内での代謝によってアミノ酸など低分子となって生体に作用するものと考えられていた。一方、ナノ粒子は粒子内に多様な高分子化合物を含有すると考えられる。ナノ粒子はエクソソームの例のようにDNAやRNA、タンパク質、ペプチドを含有し、細胞間あるいは臓器間で情報伝達に働くものとして研究が進んでいる。今回の研究における発見は、食品が含有する高分子化合物がナノ粒子を介することによって生体内での安定性や細胞膜透過性が改善され、その結果高分子化合物自体がある種の栄養素として生体に作用することを示唆しており、食品中の高分子化合物が栄養素として生体に働く可能性を示す新しい概念である。本研究成果を含め、トランスポーターの発現やみかけの活性を制御することで消化管生理作用を調節する予試験結果も得られた。具体的には、食品摂取によって経験的に知られている便秘改善作用について、嗜好飲料がトランスポーターの発現を制御し、その結果食品の生理作用が説明される成果を得た。本作用は、すでに同様のメカニズムで作用する医薬品も上市されていることから、食品作用メカニズムとして作用することも十分可能であり、曖昧な食品の健康への作用を明確にする起点となる。これら成果をもとに次年度に向けて新たな研究の展開が期待できる段階となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本申請内容のもととなる食品による消化管機能、特にトランスポーターへの影響として、OATP2B1分子を中心に、複数のトランスポーターの活性発現変動に対する食品(果汁やコーヒー)の作用を見出すことができた。さらに、当初予想していない成果も新規に得られた。すなわち、対象とする食品中には多くのナノ粒子が含有されていることを見出した。このナノ粒子中には多様な高分子化合物が含有されていることも確認されたため、食品の新しい作用メカニズムとして、従来の考え方である低分子化合物のみならず、高分子化合物も直接的に消化管トランスポーターの発現に作用することを示唆することができた。ナノ粒子の影響は本研究開始時点での計画としては想定しなかった新しい作用メカニズムであり、当初計画より進展したといえる。なお、得られた成果の一部は学術論文として公表に至った。しかし、一部しか公表に至っていないため、次年度の課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画である食品、特に嗜好飲料の消化管組織への作用メカニズムを明らかにするべく研究を進める。これによって曖昧な食品の作用について科学的根拠を与え、その有効性を明確にするとともに、医薬品との相互作用リスクに関する知見として展開する。また、新しく見出した食品中のナノ粒子の影響について進展させる。現時点では、ナノ粒子が消化管細胞に作用してる現象が得られたのみで、ナノ粒子中の作用成分の特定には至っていない。今後は作用メカニズムと作用分子を見出すことが必要である。また、トランスポーターの発現変動が生理的なベネフィットをもたらす現象を実験的に確認できた。本現象についてもメカニズムと作用分子の特定を通じた全容解明を進展させる。また、得られる成果によっては、新しい消化管疾患の治療法の提案となる可能性も秘めており、さらに深めた研究へと進める予定である。
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