研究課題
本年度は透析患者血漿中のアルブミン結合型尿素素濃度を測定し、インドキシル硫酸、パラクレジル硫酸、CMPFが腎機能の低下と共に上昇することを確認した。次に、腎ー多臓器連関について、まず筋肉に着目して検討を行った。すなわち、尿毒素の骨格筋萎縮作用とその分子機構について検討すべく、C2C12細胞及び尿毒素負荷マウスを用いて検討した。C2C12細胞の増殖及び分化 (筋管形成) に及ぼす尿毒素 (インドキシル硫酸、インドール酢酸、パラクレジル硫酸、馬尿酸、キヌレン酸及び3-カルボキシ-4-メチル-5-プロピル-2-フランプロパン酸) の影響について検討した。尿毒症物質の中でもインドキシル硫酸 (IS) がC2C12細胞の増殖と分化を抑制することが明らかとなり、その作用は病態時に観察される血漿中濃度において認められた。ISはC2C12細胞における細胞内ROS及び炎症性サイトカインの発現を上昇させ、さらに、筋萎縮因子の発現を上昇させた。このISによる作用は、OAT阻害剤のプロベネシド、NADPH oxidase阻害剤のDPI、抗酸化剤のアスコルビン酸及びAhR阻害剤であるCH-223191によって抑制された。分化後の筋管細胞においても、ISは同様の作用を示した。上記in vitroの結果を検証すべく、IS負荷1/2腎臓摘出マウスを用いたin vivo実験を行った。IS投与1時間後において筋肉内IS濃度を評価したところ、有意な上昇が観察された。抗IS抗体を用いた免疫染色並びにDHE染色の結果から、筋組織のIS分布領域にスーパーオキサイドの産生が観察された。本マウスでは、血漿中TNF-αの上昇と、骨格筋中のTNF-α、IL-6及びTGF-β1の発現亢進が認められた。また、骨格筋における筋萎縮因子であるatrogin-1とmyostatin発現の上昇が認められたものの、その際、筋分化因子のMyoD、myogenin並びにAktリン酸化の変動は観察されなかった。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者と分担者はともに、熊本地震のため研究スタートが遅れてしまった中でも、概ね目標に向けての研究を展開し、着実に成果を上げてきたと思われる。すなわち、腎ー多臓器連関の中でもCKD患者で観察されるサルコペニア(骨格筋萎縮)に対して、アルブミン結合型尿毒素の一つであるISが強く関わることを明らかとした。すなわち、ISを標的とした治療戦略またはISが誘発する骨格筋酸化ストレスを標的とした治療戦略の有用性を示唆する結果を得ることができ、次年度に向けた基盤情報を得ることができた。
H28年度は震災の影響で、震災直後は研究活動が大きく出遅れたものの、現在は研究環境は概ね回復している。ただし、現在、薬学部動物舎の感染クリーンアップのために、やや動物実験が遅れる可能性が予想される。今後、代表者と分担者の有機的連携により研究展開を進める予定である。
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