研究課題
二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)患者において、高尿酸血症の発症頻度が増加する。また、複数の観察研究で、血清PTH濃度と尿酸値あるいは高尿酸血症との関連性が指摘されてきた。これらの知見は、PTHと尿酸の密接な関係を示唆するものの、その機序については明らかにされていない。尿酸は主に腸管と腎臓から体外排泄されるが、これらの経路ではABCG2が尿酸排泄トランスポーターとして機能している。H29年度は、PTH がABCG2の膜発現の抑制を介して腸管や尿中への尿酸排泄を低下させる結果、高尿酸血症を惹起する可能性と、それに対するシナカルセトの改善効果について検討した。健常ラットに比べて、SHPTモデルラットでは血清PTH濃度と尿酸値が有意に上昇していた。その際、腎臓と小腸におけるABCG2の膜発現量が低下していた。これらの現象は、PTH分泌抑制作用を持つシナカルセト投与により抑制された。興味深いことに、血清PTH濃度と尿酸値の間には有意な正の相関性が認められた。Caco-2細胞を用いてABCG2の発現に及ぼすPTHの影響を検討した結果、活性型PTH(1-34)はABCG2 のmRNAレベルには変化を与えずに、ABCG2の膜発現量を有意に減少させた。この作用はPTH受容体に結合しない不活性型PTH(13-34)では観察されなかった。SHPT患者を対象とした観察研究では、シナカルセト投与により、血清中PTH濃度と尿酸値が有意に減少していた。その際、両者の間には有意な正の相関性が認められた。以上の結果から、血清中PTHの上昇がABCG2の膜発現を抑制する結果、尿酸排泄の低下を惹起する現象を初めて明らかにした。また、PTH分泌抑制剤であるシナカルセトが、ABCG2の機能回復を介して尿酸の体内蓄積を間接的に抑制するという、本剤に関する新たなプレオトロピック効果を見出した。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者と分担者は、概ね目標に向けての研究を展開することで着実に成果を上げてきたと思われる。H29年度は中分子尿毒素の一つである甲状腺ホルモン(PTH)に着目し、血清PTHと尿酸値上昇の関連の分子メカニズムの解明に取組み、腎領域の専門誌(Kidney Int)に論文が受理されるに至った。本研究成果は次年度に向けての基盤情報となる。
H30年4月に学内の腎領域研究者が集う研究会を立ち上げた。学内のコラボレーション等を通じて本研究課題のさらなる推進を図る。また、今後も代表者と分担者の有機的連携により研究展開を進める予定である。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (2件)
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