研究実績の概要 |
ポストゲノム時代を迎えた現在、研究対象はゲノムからプロテオームやメタボロームといったオミクスへと主眼が移りつつある。プレシジョン医療はオミクス情報に基づくバイオマーカーを用いて患者のサブグループ分けを行い、サブグループごとに最適な治療法を施すものである。心血管病態は多様なため、プレシジョン医療が必要かつ期待できる領域であるが、有用なバイオマーカーが少ないため、十分に活用されていない。本研究では、プレシジョン医療の実践を目的としたバイオマーカーを開発し、治療効果・安全性を予測するコンパニオン診断薬として活用する。バイオマーカーでリスク層別化するためには臨床情報の正確な反映が最重要なため、臨床データが揃った臨床教室で実施する利点は大きい。バイオマーカーとなる病態関連蛋白質の新規発見ないし病態メカニズムの解明ならびに臨床応用を目指す。バイオマーカーの有用性検証には欠落が無く質の高い大規模臨床試験の臨床データが必要であり、それを用いた。その成果の一例として、心不全症例においてホスフォチジルコリンの代謝物であるトリメチアルミンN-オキシド(TMAO)が急性心不全の予後予測マーカーであることを明らかした。さらに、英国との国際共同研究により、日本人、白人、南アジア人の間で人種差があることも明らかにした(Eur J Heart Fail, in press)。近年、今後の医学研究の方向性のひとつとして精密医療が注目されているが、その中で人種間の疾患成因の比較研究は重要な役割を果たすと考えられる。本検査法が開発されれば、心血管領域におけるバイオマーカーの新規開発としてのインパクトが予想され、全世界で開発が進められている次世代型のプロテオーム、メタボローム・バイオマーカーとして、心血管領域のみならず、診断検査領域さらにプロテオーム、メタボローム領域全体における世界的なインパクトが期待される。
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