研究課題/領域番号 |
16H05117
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
木山 博資 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (00192021)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 軸索損傷 / オルガネラ |
研究実績の概要 |
本研究ではオルガネラ動態と損傷神経の運命の関係を明らかにし、その動態を決定する分子機序に迫ることをめざしている。その一環として、神経損傷後のミトコンドリアの動態を解析するために、神経損傷特異的に神経細胞でのみ発現する転写因子ATF3のプロモーターを利用し、ATF3プロモーター下でCreとミトコンドリアを標識するMito-AcGFPを同時に発現するトランスジェニックマウス[Tg (ATF3-Cre/mito-GFP)]を作成した(平成28年度)。平成29年度はこのマウスを用いて細胞体でのミトコンドリアの動態を検索した。オルガネラ構造を3次元で観察するため、当施設に導入されたfocused ion beam / scanning electron microscopes (FIB/SEM)を用いることにより、従来得られなかった微細構造変化を検討した。その結果、神経細胞体内のミトコンドリアについては、神経損傷前後で大きな構造の変化は見られなかった。一方、ミトコンドリアの分裂を担っているDrp1分子を損傷運動神経特異的にノックアウトするために、Drp1 floxマウスとTg (ATF3-Cre/mito-GFP)を交配し、神経損傷後に細胞体に見られるミトコンドリアの形態変化を3D解析した。ミトコンドリアのfissionが阻害されると、ミトコンドリアの形態は巨大な球状の構造をとるようになり、ミトコンドリア内に空胞の出現やクリステの構造の乱れが生じた。また、ミトコンドリアの処理機構であるマイトファジーも3次元で観察された。このミトコンドリアの変調は損傷運動神経細胞の細胞死を加速したことから、ミトコンドリアのfissionは軸索損傷後の神経細胞の生存に必要な応答であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ミトコンドリアの動態解析については特殊な遺伝子改変動物の作成(トランスジェニックマウス[Tg (ATF3-Cre/mito-GFP)])および、それを用いた解析まで順調に進んでいる。このマウスを用いてさらにミトコンドリアの形態変化を詳細に検討することができるほか、各種の分子を神経損傷特異的にノックアウトあるいは発現させることが可能になったので、このマウスの応用についても検討する。現時点では、論文発表もでき順調に進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
29年度までの研究から、細胞体のミトコンドリアは神経損傷に応答して大きく形態を変化させないが、軸索内のミトコンドリアの形態は変化していた。このことから、オルガネラの形態変化は局所的に制御されている可能性があり、神経細胞のような極性を持った細胞においては、局所ごとのより広い範囲の形態を検討する必要があると思われる。 神経損傷によって小胞体の形態変化が生じる可能性は通常の透過型電顕による解析から示唆されているが、これについてもfocused ion beam / scanning electron microscopes (FIB/SEM)を用いて形態変化を詳細に検討する予定である。29年度末に一部予備的な実験を開始したが、運動神経細胞においては小胞体のネットワークは予想以上に複雑であり、解析にかなりの時間を要する可能性がある。平成30年度は、ミトコンドリアと小胞体のネットワークについても焦点を当て、軸索損傷に対する応答としての3次元的オルガネラ構造の変化を解析する予定である。
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