研究課題/領域番号 |
16H05121
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田村 淳 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (00362525)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | クローディン / タイトジャンクション / ノックアウト / 分子生理学 / 構造解析 |
研究実績の概要 |
上皮細胞は、多細胞生物の体内外表面をおおい、皮膚・肝臓・腎臓などの主要な臓器の機能と構造を担う生体内最多の細胞群である。上皮細胞間には、クローディンファミリー蛋白質により構築されるタイトジャンクションが存在し、細胞間バリアが構築されることで、組織の微小環境と生体機能が確立する。逆に、TJ機能が異常になるとさまざまな病的状態に直結する。 最近報告されたCldnの高分解能での構造解析が報告された。これまでの理解を大きく超えて、TJの構造と機能の理解が進んだ。本申請では、さらに、安定した結晶の構造と、生体内でのダイナミックな分子運動により生じる機能との違いは、高精度な細胞実験を用いて、比較検証する必要がある。本申請は、精緻な実験を積み上げることで、TJの理解を推進するものである。 上記目的のために、個々のCldnの検討に適した細胞の検討と樹立、微小な電気信号や水出納を捉えられる生理学的装置の構築、生理学的な機能をin vitroで再現するorgan on chipシステムの樹立、微小環境の重要性を系統的に検証する系の確立、KOマウス解析による生体での検討、などを進める。 特に、初年度の本年は、細胞系統の樹立と、KOマウスを用いた生体解析も重点を置く。KOマウスの解析は、これまで、申請者が複数のクローディンの解析を進めてきたが、クローディン2、3を優位なクローディンとして持つ肝臓は、胆汁のフローを検討することで、クローディンの機能と定量解析に結びつけることができる点で、期待される。 微小な電気信号/水出納/浸透圧を測定する系についても、樹立を進める。タイトジャンクションの微弱な異常の検討は、十分に進んでいないが、測定系が不十分なためである。こうした点を改善していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請の大きな課題は、これまでの定性的なTJ-Cldnの解析を、定量的な解析まで進めることである。そのための実験課題として、Cldnノックアウト細胞の樹立が必要であり、この点については、順次進行している。 また、CldnKOマウスの解析についても、順次進行しており、特に、Cldn3KOマウスの解析は、胆汁フローの亢進と、胆石の形成を見た。胆石は、リン酸カルシウム石であり、ヒトで通常見られるコレステロール石とは異なる性状であった。解析を進めると、類洞から毛細胆管へのカルシウムの透過性はほぼWTとKOマウスで差が認められなかったが、KOマウスでは、リンの透過性の亢進が示唆された。このことは、食事による門脈血中のリン濃度が一過性に上昇することで、KOでのみ、門脈から脆弱化したTJバリアを通って毛細胆管にリンの透過性を亢進することが、示唆された。リン酸カルシウム石のできる閾値を超えることで、胆石が生じると考えられた。微弱な組織微小環境変化と、生体機能という観点からは、やや進行が遅れているが、MDCK細胞などをフィルター上に播種したときに、ベーサル側のプロトン濃度の変化はTJ変化に大きく影響するのに対し、アピカル側のプロトン濃度変化はTJ変化に大きな影響を与えないことを見出している。こうした点は、炎症が生じたときなど、間質pH変化とタイトジャンクションの透過性変化を介して、次の炎症の特性を決める可能性があり、興味深いが、十分な定量的な解析にまで至っていない。in vitroでの解析に持ち込むことがこうした解析には良いと思われるので、organ on chipの解析など、クローディンTJが決める微小環境と生体反応を直接に観察できる系の確立を目指していく。
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今後の研究の推進方策 |
本申請の基盤となるシングルクローディン観察のための細胞系列の樹立を急ぐ。このとき、ノックアウトの細胞の細胞特性に変化はないか、特に、増殖・分化・極性などの特性変化についての解析を進める。また、堅実に結果が得られるクローディンノックアウトマウスの解析について、特に、定量的な解析に重点を置いた解析を進めることで、in vitroにおける解析との比較検討を行えるよう準備を進めておく。in vitroの系では、organ on chip法により、細胞間透過性の異なる上皮細胞シートの組み合わせが、生体の機能をどのようにつくるか、について検討を行う。また、観測のパラメーターとするイオン濃度・細胞間のイオン透過性・水の透過性・浸透圧・電気生理などについて、精度の高い観測ができる系をつくる。特に、クローディンは27個のサブタイプからなるファミリーを構成し、隣り合う上皮細胞間でのホモおよびヘテロクローディン間の複雑な会合により、タイトジャンクションバリア機能を決定する。ヘテロおよびホモのCldn間でTJが構築されるか、また、構築されたときにどのようなバリア特性を示すか、を検討する。そのために、2つの細胞の間のビオ弱な電圧電流を測定可能な微小なチャンバーの系を確立する。本系は、微弱な電流や電圧を検出する必要があるため、周囲からのシールドなどに十二分の注意が必要と考えられる。微弱な浸透圧勾配の測定も同様で困難を伴う可能性が高いので、振動のない、安定系の樹立が必須である。こうした定量的な測定を、特に、ライブあるいはライブに近いタイムコースで測定可能にすることで、細胞間透過性と環境の連動の程度や、輸送のが生体に与える機能制限などを議論できることを目指す。
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