昨年度までの実験に使用したHCN4過剰発現マウスでは、中枢神経系にもHCN4チャネルが過剰発現しているため、中枢神経系の機能変化の影響を排除できない。そこで心臓特異的に過分極誘発陽イオンチャネルHCN2を過剰発現した遺伝子改変マウス(HCN2-Tg)の洞房結節機能を解析した。このマウスは心拍数が安静期、活動期ともに上昇していた。心電図のRR間隔変動のフーリエ解析およびポアンカレプロットでは心拍数変動が顕著に低下していることが判明した。この原因を明らかにするために摘出洞房結節標本の活動電位をマイクロ電極で記録したところ、カテコラミンによる陽性変時作用が増強していることが判明した。これらの成果は原著論文として投稿する準備を行っている。 最終年度では、「HCN4チャネルは洞房結節の自発活動電位の発生よりも、ギャップジャンクションを介して心房筋に電流を供給することにより興奮伝導を促進することが主要な機能ではないか?」という仮説を検討することを試みた。HCN4チャネルをノックダウンしたマウスの洞房結節標本にカルシウム感受性色素を負荷し、イメージングにより興奮伝導の様子を観察したところ、洞房結節中心部でも自発発火は不整となり、興奮伝導の途絶を証明できるような所見を得ることは困難であった。この問題点を解決するためにHCN4発現細胞にチャネルロドプシンを発現させ、洞房結節を光遺伝学的に刺激することを試みた。その結果、洞房結節の自動能を人工的に維持することに成功した。
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