研究課題
本研究では、ゼブラフィッシュを用いた蛍光イメージング技術を駆使して、生理的および病的な血管新生を細胞生物学的及び形態学的な視点により解析し、血管新生の分子機構の多様性と普遍性を明らかにすることを目的としている。平成28年度は、以下の事項について研究を行った。1. 創傷治癒過程の血管新生において新たな血管網が構築されるプロセスの解明ゼブラフィッシュ成魚の皮膚に傷害を加え、創傷治癒に伴う血管新生過程をライブで観察した。その結果、創傷部では切断された血管枝が伸長するとともに、傷害部位周囲の血管から新たな血管枝が出芽・伸長し血管網を構築した。また、組織収縮に伴って、筋肉層の血管網が創部に移動し、傷害部位の血管と吻合することでより複雑な血管網が構築された。興味深いことに、血管網が構築された後も、内皮細胞は増殖を続け、血管の過形成を誘導したが、その後、一部の内皮細胞は消失し正常な血管構造が構築された。さらに、複雑な血管網はリモデリングにより、より機能的な構造へと変化した。以上の解析により、創傷治癒に伴う血管新生の誘導と収束は、厳密に制御されていることが示唆された。創傷治癒において損傷血管が修復する際、血流に対して下流血管のみが伸長し、上流血管が伸長しないメカニズムの解明2. 血流に対して上流の血管では、心臓のポンプ機能によって内腔圧が高く、この内腔圧が血管新生における血管伸長を抑制していることを発見した。さらに、内腔圧が血管伸長を抑制するメカニズムについて解析を進めたところ、内腔圧によって内皮細胞に伸展張力が負荷され、それにより内皮細胞のアクトミオシン系が抑制され、血管伸長が阻害されることが分かった。以上の結果より、内腔圧による血管新生の新たな制御機構の存在を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は、予定していた「蛍光バイオセンサーを発現するゼブラフィッシュの樹立」、「創傷治癒過程の血管新生において新たな血管網が構築されるプロセスの解析」を行い、着実に研究成果をあげることができた。腫瘍血管新生についての解析は、若干遅れているものの、平成29年度に実施予定であった「創傷治癒において損傷血管が修復する際、血流に対して下流血管のみが伸長し、上流血管が伸長しないメカニズム」について、先行して研究を遂行し、内腔圧が血管新生を制御するという新たな血管新生の制御機構を明らかにした。以上の理由により、現在までの進歩状況は、「おおむね順調に進展している」との自己評価にした。
平成29年度は、平成28年度の研究成果を踏まえ、以下の点について焦点を当て研究を進める。1. 創傷治癒過程の血管新生において、新生血管にペリサイトが動員され、内皮細胞を被覆するメカニズムを解析する。2. 創傷治癒に伴う血管新生を、組織修復と同時に観察することで、血管新生における内皮細胞とその他の組織修復に関わる細胞(マクロファージ、繊維芽細胞、ケラチノサイト)との細胞間相互作用を解析する。3. 内腔圧が血管新生を抑制するメカニズムについて、特に内皮細胞に負荷された伸展張力が血管伸長を抑える機構を解析する。4. 腫瘍血管新生において、新たな血管網が形成されるプロセスを解析する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 7件) 備考 (1件)
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