研究課題
申請者らは、間歇的低酸素(IH)を慢性負荷したラットでは、急性低酸素負荷で起こる低酸素性肺血管収縮(HPV)が、肺マクロファージに誘導されたβ3アドレナリン受容体(AR)を介した一酸化窒素(NO)放出機構の肺血管拡張作用によって強く抑制されることを見出した。本研究の目的は、1)IH負荷後ラットへの急性低酸素負荷時に観察された肺M1マクロファージβ3AR‐NO放出機構を介したHPV抑制は、肺交感神経性活動の低酸素性増大により引き起こされるのか、2)このM1マクロファージの肺血管拡張・HPV抑制作用は、IHの慢性負荷で活性化する肺高血圧症誘導機構に対して抑制的に働くのかを究明することである。目的1)を明らかにするため、肺交感神経の除神経群と非除神経群間でHPVの抑制度を比較するという手法を選択した。28年度は肺移植による肺交感神経の完全除神経法を試みたが、手術に伴う炎症反応による肺マクロファージ発現の変化が影響し、対照との比較が上手くいかなかった。そこで、29年度は、新たな肺交感神経の特異的除神経法としてアデノ随伴ウイルスベクターを用いた遺伝子導入による交感神経特異的タンパク質遺伝子のsilencing法を試みた。その結果、他臓器で用いているベクターの直接注入は肺では上手くいかず、吸入法による導入を試みているが、安定した導入ができていないのが現状である。目的2)については29年度から研究を進めた。マクロファージの慢性的な消去を目的として、liposomalclodronate (15 mg/kg)を、IH慢性負荷(6週間)の間、4日毎にラット尾静脈から注入した。その結果、対照ラットと比較して、肺高血圧症の明らかな増悪を認めた。この結果は、IHの慢性負荷で誘導される肺マクロファージは、同時に活性化される肺高血圧症誘導機構に対して、抑制的に働いていることを示唆した。
3: やや遅れている
研究実績の概要に述べたように、肺交感神経活動の特異的効果を調べるため、28度は肺移植による肺除神経、29年度は遺伝子導入による交感神経特異的タンパク質遺伝子のsilencing法を試みたが、最終的にこれらの実験法では目的が達成できないとの結論に達した。そのため、目的1)に関する研究計画を予定通りに進めることはできなかった。
最終年度は、目的1)を達成するため、下肺葉を養う肺葉動脈の全周を外科的に剥離後10%フェノールを塗布し、肺葉単位の除神経を試みることにする。目的2)については、IH慢性負荷の間(6週間)、β3AR遮断剤を浸透圧ポンプで慢性的に注入し、肺高血圧症の増悪が起こるかどうかを調べ、肺M1マクロファージβ3AR‐NO放出機構を介した肺血管拡張・HPV抑制作用が、IHの慢性負荷で活性化する肺高血圧症誘導機構に対して抑制的に働くのかを究明する。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件)
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