研究課題/領域番号 |
16H05127
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山口 良文 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (10447443)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 冬眠 / 細胞死耐性 |
研究実績の概要 |
冬眠は、全身性の代謝抑制により低温・乾燥・飢餓といった極限環境下での長期生存を可能とする生存戦略である。恒温動物である哺乳類の中にも、10度以下まで体温を下げ冬眠する哺乳類がいる。通常の哺乳類は長時間の低体温下では臓器機能を保持できず死に至 ることを鑑みると、冬眠動物の備える冬眠耐性は驚異的である。興味深いことに冬眠耐性は通年発揮されるのではなく、前冬眠期から冬眠期にかけて誘導されることがいくつかの先行研究により報告されている。しかし、これらの変化とその冬眠期特異的誘導の分子機構は殆ど不明である。そこで本研究では、冬眠可能な哺乳類であるシリアンハムスターを用いて、冬眠耐性の発現機構の解明を試みている。 シリアンハムスターは、短日・寒冷環境に二ヶ月から三ヶ月以上の長期間曝露することで外界の季節に関わらず数ヶ月の冬眠を行う 。わたしたちはまず安定した冬眠誘導系を確立し、冬眠誘導には体重の閾値があること、および冬眠導入までの期間には体重と正の相 関があることを明らかにした(Chayama, 2016)。さらに、冬眠期と非冬眠期の個体の間で全身臓器において発現する遺伝子のプロファイリングを次世代シーケンサーを用いて行い、冬眠個体において発現が亢進または減弱する遺伝子を多数同定した。これらの成果を用いて、白色脂肪組織、褐色脂肪組織、肝臓、骨格筋等の組織における冬眠期特異的生体変化を明らかにしつつある。具体的には、白色脂肪組織で生じる脂質同化と脂質異化の同時亢進、白色脂肪細胞の褐色化、骨格筋の筋繊維タイプシフト、が、冬眠誘導前の前冬眠期に生じることを経時的サンプリングと遺伝子発現解析に より明らかにした。さらに非侵襲的手法を用いて同一個体における白色脂肪・骨格筋量の測定を全冬眠期間を通じて行い、白色脂肪および骨格筋量が冬眠期間は一定に保たれることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度はH28年度に引き続き以下の成果が得られた。 1)シリアンハムスターの全冬眠期間における白色脂肪・骨格筋量の変動を、非侵襲的測定法により計測した。その結果、両者ともに冬眠誘導までの間に減少し、冬眠期間は一定に保たれることが明らかとなった。 2)冬眠時に発現変動する遺伝子が、冬眠にともなう低体温により誘導されるものなのか、それとも冬眠特異的なものなのかを、麻酔薬による強制低体温実験等により明らかにした。 3)冬眠期に生じる白色脂肪組織、骨格筋、肝臓における臓器変化を解析した。昨年度明らかにした白色脂肪組織で生じる脂質同化と脂質異化の同時亢進に加え、白色脂肪組織の褐色化、全身性に生じる骨格筋の筋繊維タイプシフトを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに同定した冬眠期特異的遺伝子発現変動の意義を、培養細胞系および個体への遺伝子導入実験を行うことで解析していく。また、冬眠個体が示す低体温耐性機構についても肝初代培養および脂肪細胞初代培養系等を用いて解析を行なう。以上の研究成果を論文として公表する。
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