本研究の主な目的は、中枢オキシトシン神経系がストレス神経回路に作用する仕組みを個体レベルで解明することである。オキシトシンが抗不安・ストレス緩和作用を持つことは知られているが、その脳内での作用メカニズムは不明である。研究代表者はこれまでに、オキシトシンニューロン選択的に任意の遺伝子を発現させる技術を開発した。平成28年度に、この技術を用いて緑色蛍光蛋白質を発現させ、視床下部のオキシトシンニューロンの軸索投射先を解析したところ、ストレス反応の発現に関わることが知られるいくつかの脳領域に投射することが分かった。そこで、平成29年度から平成30年度にわたって、オキシトシンニューロン選択的に任意の遺伝子を発現させる技術を用いて、ラット視床下部のオキシトシンニューロン選択的に光感受性カチオンチャネルを発現させ、その軸索の各投射先領域にin vivo光照射を行うことで生じる自律生理反応(体温変化、熱産生反応、血圧・脈拍変化など)を計測した。その結果、光照射によって褐色脂肪熱産生が惹起されるオキシトシンニューロン軸索投射先を特定した。視床下部由来のオキシトシン含有軸索は、褐色脂肪熱産生を駆動するグルタミン酸作動性神経伝達を増強することが分かった。 また、これとは別に、心理ストレスによって活性化され、褐色脂肪熱産生を駆動する大脳皮質-視床下部-延髄の神経回路も明らかにできた。このストレス神経回路をオキシトシン神経系がどのように修飾するのかについては今後の研究課題である。
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