研究課題/領域番号 |
16H05129
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
美津島 大 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (70264603)
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研究分担者 |
木田 裕之 山口大学, 大学院医学系研究科, 講師 (70432739)
石川 淳子 山口大学, 大学院医学系研究科, 助教 (30570808)
崎本 裕也 山口大学, 大学院医学系研究科, 助教 (40634390)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | AMPA receptor / GABAA receptor / contextual learning / synaptic plasticity / glutamate / GABA / self-entropy / diversity |
研究実績の概要 |
ストレス回避学習を雄性ラットに課し、スライスパッチクランプ法でCA1シナプスにおける興奮と抑制のシナプス可塑性を解析してきた。学習依存的に興奮と抑制のシナプス多様化が発現し、この多様化は学習に必要であること、両側の背側海馬に限局的であることが判明した。今回、背側海馬CA1をさらにlateral軸の内側、中央部、外側に分け、3領域でCA3-CA1 synapseとTA-CA1 synapseにおける学習依存的な興奮性シナプスの可塑性を確認した。すると、上記3領域全ての両シナプスでAMPA受容体を介するpost synapticなシナプス強化が見られると同時に、presynapseからのglutamate分泌量が若干減弱していた。lateral軸に沿った領域特異性は乏しいが、両シナプスの3領域で学習後のpostsynaptic currentとpaired-pulse ratioの分散に有意差が見られ、情報処理密度の差が示唆された。 学習がCA1多ニューロン発火活動に及ぼす影響についても検討を進めた。10分間の拘束ストレスを負荷すると、自発的な高頻度発火活動(super firings)が発生し、拘束中と解放後に何度もsuper firingsが確認されるが、spike2によるspike sortingを実施したところ、4.5±0.4 unitsの協調的な発火活動によってsuper firingsが形成されていた。さらに最も高頻度発火したunitは常に同一でなく、個々のsuper firingsごとに変化していた。解放数分後には 発火活動の少ないsilent periodと約50msの短い期間に複数の発火活動が同期して発生するripple状発火活動の発現が始まり、On/Offを繰り返す活動が維持されるが、ストレス性の低いnovel objectの提示では変化が認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ストレス回避学習を用いて、海馬CA1におけるエピソード学習のメカニズム解明を目指している。スライスパッチクランプ法を用いた解析は順調に推移し、記憶情報の集積部位が判明し、エピソード曝露何分後にシナプス前細胞側とシナプス後細胞側でそれぞれどのような可塑性が見られるのかを、興奮性シナプスと抑制性シナプスそれぞれで明らかにした。さらに、Kernel密度推計法を用いて多様化したシナプスの発現確率をニューロン毎に解析し、各ニューロンの発現確率から自己エントロピーを計算し、ニューロン毎に内在する情報量は異なること、1ニューロン当たりの情報量は学習で急性的に拡大することを明らかにした。in vivoの多ニューロン発火活動の記録実験では、回避学習に用いる電気ショックが記録障害を引き起こすため、急遽動物の四肢をガーゼ紐で固定する拘束ストレスをエピソード課題として採用した。拘束ストレスのエピソードも学習成立を確認し、学習前後の発火活動の変化を連続的に捉えることが出来た。エピソード曝露中や直後に発生する自発性高頻度発火活動(super firings)に続き、高い多様性をもって動的に変化するリップル状発火活動とsilent peripdが何度も繰り返し発現し、このような特徴的な自発発火活動は30分以上維持された。また、super firingsの積算時間は、ripple状発火活動の回数と有意な正の相関を示した。GABA脱抑制、glutamate分泌増加、super firings、興奮と抑制のシナプス多様化、ripple状発火活動、silent periodと学習の因果関係を証明するため、光遺伝学的手法や薬物の脳内microinjectionによるfocal inactivationを進めている。
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今後の研究の推進方策 |
実際の海馬学習は、高頻度刺激や薬物によるin vitro LTP誘発実験と多くの共通点を持つが、また同時に多くの相違点が存在した。まず、エピソードの曝露直後からプレシナプス側からのGABA分泌量低下による急性的な脱抑制が起き、続いてプレシナプス側からのglutamate分泌増加による興奮性入力の増加、自発性の高頻度発火活動であるsuper firingsが確認された。その後10分以内に、興奮と抑制のシナプス多様化が完成し、この時期のin vivo発火活動としてはripple状同期発火活動とsilent periodの繰り返し発現が続き、特徴的な自発発火活動が維持された。また、興味深いことに、経験した学習内容によってduration, amplitude, arc lengthなど様々な指標でripple状同期発火活動の形状が有意に異なり多様性を示すこと、LIAと呼ばれる低周波成分とphase lockしてripple状同期発火活動が発現することから、ripple状同期発火活動は海馬内で経験情報をコードしているのではないかとの仮説に至った。現在、これらの時系列的事象と学習の因果関係を証明している状況である。回避学習によるシナプス多様化は両側の背側海馬で発現し、腹側海馬では見られないことが判明しているため、光遺伝学的手法により両側の背側CA1のinter neuronをエピソード曝露と同時に光刺激してGABAの脱抑制をブロックし、シナプス多様化や学習成績に及ぼす影響を検討することを目指したが、trandgenic mouseではChR2発現量が少ない事が判明し、AAVを用いた遺伝子導入を進める必要がある。
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