研究課題
ストレス応答機構の1つであるp62-Keap1-Nrf2経路は、p62/SQSTM1(以下、p62とする)のリン酸化に依存して活性化される。重要なことに、本経路は肝がん細胞株や肝がん患者組織では恒常的活性化状態にあり、がん細胞の増殖に有利な代謝リプログラミングや薬剤耐性能の獲得に寄与している。すなわち、p62-Keap1-Nrf2経路が亢進しているがんでは、p62の発現抑制、リン酸化阻害、ないしは代謝促進を介したp62の不活化が有効な抗がん治療となることが期待される。本年度は、ヒト肝細胞がん株、および肝細胞がん患者検体を用いた解析から、リン酸化p62が引き起こすがんの病態生理とその分子メカニズムの一部を解明し、次の要点を論文報告した(Nat Commun.7:12030 2016)。1. 肝がん細胞におけるリン酸化p62を介したNrf2の活性化は、グルコースからUDP-グルクロン酸の合成、およびグルタミンからグルタチオン合成を促進していた。2. リン酸化p62を持つ肝がん細胞は、薬剤抱合に関与するUDP-グルクロン酸の産生亢進により抗がん剤耐性能を獲得、さらに、グルタチオン産生を亢進させることで、腫瘍増殖を促進していた。3. 肝特異的ATG7欠損マウス肝臓では、Nrf2に依存したプリンヌクレオチドやグルタチオン合成の促進がみられるが、それらは腫瘍形成以前から引き起こされていた。4. C型肝炎ウイルス陽性のHCC患者では、リン酸化p62の顕著な蓄積が特徴として認められた。さらに、5. Keap1とリン酸化p62の結合を競合阻害する化合物K67を同定した。6. リン酸化p62を持つ肝がん細胞に対するK67の抗がん作用(がん細胞の増殖抑制効果、既存の抗がん剤の作用増強効果)を確認、構造解析と生化学的解析より、リン酸化p62とKeap1の結合を特異的に阻害することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
がん細胞のリン酸化p62を負に制御するキナーゼを始めとする決定的因子の同定について、今年度は、キナーゼを標的とするsiRNAによるノックダウンサンプルをウェスタンブロットで解析するスクリーニング作業を中心に進め、結果として、複数のヒット遺伝子を得ることができた。同定されたキナーゼの2次スクリーニング、およびキナーゼ阻害剤による検証を現在進めている。さらに、リン酸化p62とKeap1の結合を阻害する化合物K67の誘導体を作成し、その効果についても検証を進めている。
現在、キナーゼに加えてp62の制御因子の網羅的なスクリーニングを可能にするため、リン酸化p62の動態を基盤とするハイコンテントシステムを考案し、ヒト全ゲノムsiRNAライブラリー(約18,000遺伝子)を用いたハイスループットスクリーニング系を構築している。先のキナーゼスクリーニングに合わせて、肝がん細胞のp62のリン酸化を含む幅広い制御因子の同定作業を進めていく予定である。さらに、K67の誘導体に関しては、東京大学創薬機構と慶応大学薬学部との共同研究により、活性、溶解性、細胞膜透過性、生体内安定性でより優れた改変体を作出し、細胞および個体レベルで検証していく。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 6件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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