研究課題
Wntシグナルは、多機能なシグナル伝達経路である。このシグナルは状況に応じて細胞に対して未分化維持、増殖、分化、成熟、生存、死等の質的に異なる運命を選択的に誘導し、私たちの体を構成するほぼ全ての組織の構築と恒常性維持を支える。一方でWntシグナルは、腫瘍細胞の未分化性や増殖、生存を正に制御することで、がんの発症や悪性化にも関わる。しかし、Wntシグナルがどのようなメカニズムによって質的に異なる細胞運命を状況ごとに選択的に誘導することが出来るのか、については未解明である。本研究では、このWntシグナルの選択的な細胞運命誘導のメカニズムを解明し、これによりWntシグナルの多機能性を支える分子基盤を理解することと、腫瘍細胞の増殖を支えるWntシグナル制御因子と、その活性阻害化合物の探索を行い、がん治療への貢献することを目指している。研究開始に先立ち、当研究の現状と未解決課題を英文総説にまとめた(JB 2017)。そしてまず、Wntシグナルの選択的な細胞運命誘導のメカニズムを解析するために、ライブイメージングに適したゼブラフィッシュにおいて「Wntシグナル活動細胞をFACSを用いて分取し、Wntシグナル活動細胞における遺伝子発現などをオミクス解析する系」を確立した。そして、この系を用いてWntシグナル活動細胞のRNA-seq解析を実施した。また、大腸がん細胞においてWntシグナルを制御する因子として二つのユビキチンリガーゼを発見した。さらに、海外のグループとの共同研究により、肝がんにおける新たなWntシグナル制御機構(JCI 2017)と生殖細胞発生における新たなWntシグナル制御機構(BBA 2017)を発見した。
3: やや遅れている
28年度中に予期せぬトラブルのため、オミクス解析系の確立と大腸がん細胞の解析の開始が遅れたため。しかしながら、29年度に遅れをリカバーできたと考える。
RNA-seq解析の結果をもとに、Wntシグナル多機能性の分子基盤の解析を進める。また、新たに発見したWntシグナルを制御する因子の作用機序を解析するとともに、新規Wntシグナル制御因子の探索を継続する。加えて、Wntシグナル制御因子の阻害化合物の探索を行い、がん治療への貢献を目指す。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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