研究課題/領域番号 |
16H05143
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
奥田 晶彦 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (60201993)
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研究分担者 |
平崎 正孝 埼玉医科大学, 医学部, 助教 (10522154)
依馬 正次 滋賀医科大学, 動物生命科学研究センター, 教授 (60359578)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | MYC / Max / ES細胞 / がん細胞 / 細胞増殖 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
c-Mycタンパク質はがん遺伝子産物の一つであり、MAXタンパク質と複合体を形成することで転写因子として機能し、Cyclin D遺伝子であるとか、細胞増殖に深く関わる遺伝子の発現を上昇させることで、細胞増殖を正に制御していることがよく知られている。このようにc-MYCは細胞増殖促進因子として専ら知られているが、例えば、c-MYCが正常細胞において過剰発現すると、細胞増殖よりも、むしろアポトーシスが顕著なフェノタイプとして現れる。しかし、ES細胞やがん細胞では、そのc-MYC依存的なアポトーシスは正常細胞よりも遥かに起こりにくく、その細胞種におけるc-MYC依存的なアポトーシスの活性の発揮されやすさの違いを規定している分子メカニズムを明らかにすることが、本研究プロジェクトの最大の目的である。 現在までに、c-MYC依存的なアポトーシスには、転写促進には必須なMAXタンパク質との相互作用は不要であり、むしろ、MAXは、c-MYCと相互作用することで、このc-MYCが持つアポトーシス誘導活性に対して抑制的に働くことを明らかにしている。さらには、ES細胞における代表的なマーカータンパク質であるNANOGも、c-MYCと直接結合することができ、MAXと同様にc-MYCが持つアポトーシス誘導活性を抑制できることを明らかにしている。NANOGはES細胞のみならず様々ながん細胞でも発現しているので、c-MYC依存的なアポトーシス活性の発揮のレベルの細胞種による違いはNANOGの発現の有無で説明できるのではないかという仮説を持って研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私たちは、今までに、c-MYCタンパク質は、MAXと結合していないと、転写因子としては無機能であり、但し、同タンパク質が持つアポトーシス誘導活性は、MAXと結合していない遊離のc-MYCタンパク質が本質的に持つ活性であること、さらには、そのc-MYCによるアポトーシス誘導活性は、MAXと相互作用することで、ほぼ消失し、されには、MAX以外でもNANOGタンパク質が結合しても、アポトーシス活性の抑制は同様にみられることを明らかにした。なお、MAXタンパク質は、c-MYCタンパク質のカルボキシ末端にあるヘリックス・ループ・ヘリックスーロイシンジッパードメインと結合し、一方、NANOGは、c-MYCタンパク質のアミノ末端領域にあるMYC Boxと呼ばれるドメインに結合していることがわかった。なお、c-MYCは転写促進のみならずDNA複製に対しても促進する機能を有することが知られており、但し、そのc-MYCによるDNA複製促進という機能がMAXタンパク質に依存的であるか否かについては解明されていない。私たちは、遊離c-MYCタンパク質を生み出すES細胞におけるMax遺伝子のホモ欠失が、DNA複製に対してどのような影響を与えるかをDNA fiber assayにより、DNA複製速度を測定したところ、明らかに、Max遺伝子のホモ欠失は、ES細胞におけるDNA複製速度の低下を引き起こしていることを見出した。従って、これらの結果から、私たちは、c-MYCによるDNA複製促進活性についても、転写促進の場合と同様、MAXタンパク質との相互作用が必要であり、MAXと結合していない遊離c-MYCタンパク質はDNA複製を促進することができないのみならず、DNA複製に対して負に作用し、そのことがDNA複製ストレスを惹起し、アポトーシスを起こしているのではないかという仮説を立てるに至った。
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今後の研究の推進方策 |
MAXタンパク質と相互作用していないc-MYCタンパク質がアポトーシスを惹起する責任分子であることはほぼ確定できており、MAXが結合することで、c-MYCが持つアポトーシス誘導活性が抑制されることも私たちは事実として確定している。c-MYCは転写のみならずDNA複製に対しても促進活性を有しており、今までの結果から、私たちは、c-MYC/MAX複合体はDNA複製を促進し、一方MAXと結合していないc-MYCタンパク質は、ドミナントネガティブ体として作用することで、DNA複製に対して抑制効果を発揮する。そして、その結果、細胞にDNA複製ストレスが惹起され、アポトーシスが誘導されるという仮説を持っており、平成30年度は、その仮説が間違いの無い真実であるか否かを探るための実験を中心に進めていくことになる。また、c-MYC依存的な細胞のアポトーシスは、MAXのみならず、NANOGが結合することによっても抑制されることは既に証明できているが、そのNANOGによる作用が、遊離c-MYCタンパク質が引き起こすDNA複製抑制のどの部分に作用しているかについて分子レベルで解明したいと考えている。具体的には、c-MYCタンパク質は、DNA複製にとって極めて重要な働きをするMCMヘリカーゼ複合体と相互作用することから、まず、そのc-MYCのMCMヘリカーゼとの相互作用にNANOGがどのように影響を与えるかを明らかにすることで、NANOGによる細胞のc-MYC依存的なアポトーシスからの回避の分子メカニズムの解明の突破口になることを期待して解析を進めていきたいと考えている。
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