研究課題
弾性線維は、伸び縮みする組織(皮膚・動脈・肺など)に多くあって、その伸縮性を担う細胞外マトリックスである。皮膚のたるみだけでなく、心疾患予後悪化因子である動脈中膜硬化、高齢者の主要疾患である肺気腫も弾性線維の劣化・断裂が直接原因と考えられているため、弾性線維の劣化予防と再生は高齢化社会における極めて重要な課題である。しかし弾性線維のターンオーバーは極めて遅く、弾性線維の再生は困難と考えられてきた。弾性線維形成には(1)ミクロフィブリルという線維の束が形成され、(2)エラスチンタンパク質がミクロフィブリルに沈着し、(3)エラスチンどうしが架橋される、というプロセスがある。我々はこれまでの研究で、それぞれのプロセスに必須のタンパク質(特にFibulinファミリー分子とLTBPファミリー分子)があることを明らかにしてきた。本研究では、それらの生体内での働きを明らかにし、弾性線維の形成と維持、再生の分子機構を解明することにより弾性線維再生技術の基盤を作る。本年度は、エラスチン架橋酵素リシルオキシダーゼの活性化におけるFibulin-4の役割に重点を置いて研究した。エラスチン、コラーゲンなどは分子どうしの非共有結合だけでは必要な弾性や強度を生み出すことができず、分子どうしが共有結合で架橋される必要がある。架橋を行うのはリシルオキシダーゼという酵素であるが、リシルオキシダーゼ遺伝子欠損マウスとFibulin-4遺伝子欠損マウスの表現型が同じ(動脈と横隔膜破裂による周産期死亡)であり、リシルオキシダーゼとFibulin-4が直接結合することから、両者の機能的な関係を想定し、その分子機構を研究した。
2: おおむね順調に進展している
1.Fibulin-4のアミノ末端ドメインとリシルオキシダーゼのプロドメインが結合することをin vitro bindingアッセイで確認した。2.Fibulin-4欠損マウス組織が作るリシルオキシダーゼはSDS-PAGEでの流れ方が若干遅くなることを見いだした。3.Fibulin-4欠損マウス線維芽細胞が作るリシルオキシダーゼもSDS-PAGEでの流れ方が若干遅くなり、Fibulin-4の過剰発現により回復することを見いだした。4.Fibulin-4欠損マウス線維芽細胞が作るリシルオキシダーゼを精製したところ、活性が著しく低いことを見出した。すなわちFibulin-4はリシルオキシダーゼの活性そのものに必要であることが明らかとなった。
なぜFibulin-4がリシルオキシダーゼの活性そのものに必要であるのか、その分子メカニズムを解明する。リシルオキシダーゼは銅イオンを取り込んで活性中心となる分子内架橋LTQ(Lysine Tyrosyl Quinone)を形成することがわかっているため、その形成にFibulin-4が必要なのかどうかを明らかにする予定である。
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巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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