研究課題/領域番号 |
16H05147
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
森口 尚 東北医科薬科大学, 医学部, 教授 (10447253)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 腎虚血再還流障害 / GATA2 / 炎症性サイトカイン / 腎集合管 / 慢性腎臓病 |
研究実績の概要 |
急性腎臓病は心臓血管系手術などによる一過性腎虚血に合併し、重篤化すると不可逆的な腎線維化をともなう慢性腎臓病へと進行するリスクがある。これまで、急性尿細管壊死に陥った近位尿細管が炎症性サイトカインを産生し、病態形成の中心的な役割を担うと考えられてきた。一方で他の尿細管細胞が病態形成に関わる可能性は明らかでなかった。腎集合管は尿細管の最下流に位置し、尿からの水再吸収により尿濃縮に関わる。本研究では腎集合管に特異的に発現するGATA2転写因子に着目し、GATA2が腎臓病時の腎内炎症環境形成に関わる可能性を明らかにすることを目指す。初年度は、尿細管細胞特異的にCre酵素を発現するPax8-CreマウスとGATA2条件付き欠失マウスを交配し、腎集合管細胞特異的にGATA2を欠失するマウス(G2CKOマウス)を作出した。このG2CKOマウスに対して一過性腎虚血再還流(Ischemia-Reperfusion Injury; IRI)による急性腎臓病を誘導した。その結果、興味深いことにG2CKOマウスは腎障害誘導に対して耐性を示した。G2CKOマウスの腎集合管細胞を単離しトランスクリプトーム解析を行ったところ、GATA2を欠失する腎集合管細胞では、Tnf、Ccl12、Cxcl10、Tnfなどの炎症性サイトカイン遺伝子の発現誘導レベルが減弱していた。腎集合管由来細胞株(mIMCD細胞)にGATA2を過剰発現すると、これらのサイトカイン遺伝子群の発現レベルが上昇することを確認した。また、アントラキノン系化合物であるミトキサントロンにGATA因子阻害活性があることがわかり、mIMCD細胞にミトキサントロンを添加するとサイトカイン遺伝子群の発現レベルが、抑制されることがわかった。これらの結果から腎集合管細胞は虚血再還流腎障害の病態形成において確固たる役割を担い、複数の炎症性サイトカイン・ケモカイン遺伝子群がGATA2の制御下にあることが明らかとなった
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腎集合管細胞特異的なGATA2欠失マウス(G2CKOマウス)が予定どおり得られたため、解析が順調に進んだ。その結果、G2CKOマウスは急性腎臓病誘導に対して耐性を持つことが解った。これまで急性腎臓病の病態形成おいて、近位尿細管が中心的な役割を担うと考えられてきたが、今回の結果から、腎集合管細胞も病態形成に関わることが、初めて明らかとなった。また、ミトキサントロンによるGATA因子阻害活性が、病態時の炎症性サイトカイン誘導を抑制する可能性があることが見いだされ、急性腎臓病の治療に応用できる可能性が示唆された。これらの知見が初年度に得られたため、次年度以降はGATA因子阻害剤により、急性腎臓病の発症を予防できる可能性を追究する。また、GATA因子による炎症性サイトカイン遺伝子発現誘導に関して、分子生物学的な解析を重点的に進めていく。ヒトIL6遺伝子ルシフェラーゼーレポーターマウスによる、インビボイメージング解析を用いた炎症評価系も予備実験が順調に進み、腎内の炎症状態が再現性良く定量的非侵襲的に評価できることが解った。今後、G2CKOマウスでの腎臓病重症度の評価や、薬剤による腎臓病治療の評価系として応用していく。GATAファミリー因子のGATA3の腎臓内での機能解析の結果、GATA3は腎糸球体メサンギウム細胞の発生維持に必須であることが解り、こちらは論文として発表することができた(Moriguchi et al., 2017. Mol Cell Biol)。
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今後の研究の推進方策 |
G2CKOマウスで病理学的解析から観察された急性腎臓病への耐性に関して多角的な解析を進める。血清クレアチニンや尿素窒素レベルなどの腎不全パラメーターのレベルや、尿細管細胞のアポトーシスのなどを検討する。とくに腎内への炎症細胞浸潤の程度を、フローサイトメトリーを活用して定量的に解析する。GATA2転写因子は顆粒球やマクロファージなどの炎症細胞にも発現している。これら炎症細胞に発現するGATA2が急性腎臓病誘導への感受性に関与しているかを検討するために、骨髄球系細胞特異的Creマウス(LysM-Cre)とGATA2条件付き欠失マウスを交配し、骨髄球系細胞特異的GATA2欠失マウスを作出する。本マウスでの急性腎臓病誘導感受性を解析する。腎集合管細胞でのGATA2標的遺伝子の網羅的探索に関して、とくに炎症性サイトカイン遺伝子群に着目し、mIMCD細胞を用いた次世代シーケンサー解析を進める。これまでに得られたGATA2阻害剤(新規化合物および既存阻害薬)に関して、急性腎臓病誘導マウスへの投与による腎障害治療の可能性を検討する。GATA2阻害剤をマウスに投与した際に、腎障害誘導に伴う炎症性サイトカイン発現レベルが抑制されるか、そして腎障害が病理的に改善するかを検討する。薬剤投与方法に関して、腎臓病誘導前のGATA2阻害剤投与や腎臓病誘導後の投与など、投与時期を変えた際の影響を解析する。これらの解析においてもヒトIL6遺伝子ルシフェラーゼーレポーターマウスを活用し、経時的非侵襲的に腎内の炎症状態の解析を行う。
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