今年度は 加齢に伴う細胞機能変化を検討するために、ヒト正常線維芽細胞を継代して細胞老化をきたしたものと、そうでないものを比較するべく、microarray にあてて、trasncriptome の変化を観察した。その結果、細胞老化をきたした細胞では、IL6をはじめとした炎症性サイトカインの発現の増加が顕著に認められた。その中で IFN刺激に応答して発現が増える遺伝子群の発現変化がみられたものの、IFN自身の発現量には変化が無いことに着目して、IFN刺激を伴わずにIFN応答遺伝子の発現量が変化する分子機構を解析した。その結果、通常であればIFNの刺激によって誘導されるSTAT群のリン酸化が起きていないにも関わらず、STATが核内に移行して、IFN応答遺伝子のpromoter活性を刺激していることを見出した。このことは、加齢性変化をきたした細胞では STATのリン酸化が内にも関わらず 核内にSTATが移行し、その結果、IFN下流の応答遺伝子の発現が増えていることが示唆された。 ヒト検体でこの現象が起きているかどうかを検定するべく、組織アレイを用いて高齢者と若年者の肝臓組織内での蛋白発現量を免疫組織化学で見てみると、肝実質細胞では変化が無いものの、非肝実質細胞である類洞壁細胞では若年者に比べて高齢者でSTA1およびSTAT2蛋白の発現量が増えていることが示された。加齢に伴う細胞老化が非肝実質細胞で惹起され、その結果、STA1/2蛋白の発現量が増え、核内に移行することが示された。 これらの結果から、非実質細胞の細胞老化が個体としての加齢に伴う変化をきたす一因となっていることが示唆された。
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