1)SmadとEts1の協調作用の解析 CASTing法によって得られた内因性Smad結合配列の中に、Smad結合配列(SBE、CAGA)とEts転写因子結合配列(EBS)を含むものを見出した(以下、ECSと略記)。ECS配列をpGL4レポーターベクターに導入したところ、TGF-β依存的に良好な応答性を示した。また、SBA、 CAGA、あるいはEBSの変異によりレポーター活性は消失した。一方、ECS配列とSmad タンパク質の結合はEBSの変異によりほとんど影響されなかった。以上の結果から、転写活性化においてSmadとEtsタンパク質は協調作用しているが、SmadとEtsタンパク質の相互作用はECS配列への結合には必要ないことが明らかとなった。これにより、従来の「SmadとDNAの結合にはSmad cofactorが要求される」との考え方は一部修正が必要であると考えられた。 2)Smadによる転写活性化の必要条件の検討 上記の結果を受けて、SmadのDNAへの結合と転写活性化能との対応について詳細な検討を進めた。その結果、Smad複合体もSmad cofactorも転写活性化に必要なhalf unitであり、各々、単独でDNAに結合しても転写は活性化できない。しかし、Smad 複合体がDNAに2つ以上結合する、あるいはSmad cofactorと協調してDNAに結合することが転写活性化の条件である可能性を示唆する結果を得た。 3)TGF-β刺激による細胞運動性亢進機構の解析 TGF-βによる細胞運動性亢進作用はシグナル伝達因子Smad3をノックアウトした細胞ではみられなくなる。この細胞にSmad3あるいはSmad3変異体遺伝子を再導入する実験により、Smad3タンパク質上で運動性亢進作用に関与する領域を同定した。この領域はRac1を活性化して細胞にラメリポディアという構造を形成させるために重要であることを突き止めた。
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