研究課題
ヒトは一日あたりその体重に相当する重さのATPの合成と分解を行っていると言われており、ATPとATPaseは、生物(細胞)の活動に なくてはならないものである。可溶性ATPaseの中で最も豊富に存在するのが、VCPと呼ばれるATPaseで、細胞に必須の蛋白質であるが、その詳細な機能はよく解っていない。我々は、このVCPのATPase活性を特異的に阻害する化合物KUS(Kyoto University Substance)を開発してきた。このKUSを作用させた細胞では、低グルコースや血清除去さらにはミトコンドリアの呼吸鎖の阻害剤処理に対して抵抗性を示し、ATPの減少が抑制されることを見いだし、VCPのATPase活性を抑制することが、ATPの有効な節約法であることを示してきた。 このような背景の本、本研究では、細胞自身がVCPのATPase活性を抑制して、ATPの恒常性を調節するメカニズムが存在する可能性の検証とKUSを用いた疾患モデルへの介入実験を行った。平成29年度は、PC3など幾つかの癌細胞を飢餓状態にするとVCPが細胞内でドット状の構造体に変化することを見いだした。このドット状の構造体は、ライソゾームの一部に共局在し、その構造体の形成にはVCPのコファクターであるUfd1/Npl4が必要であり、この構造体は、アミノ酸の欠乏が引き起こしていることをみいだした。一方、薬剤誘導性のパーキンソン病モデルに、KUSを用いた介入実験を行った結果、KUSの投与は、培養ドーパミン神経細胞およびマウスの中脳黒質のドーパミン神経細胞を細胞死から保護する活性があることが判明した。さらに、心筋梗塞のモデルにおいてもKUSの投与によって、梗塞部位の体積の有意な減少が観察された。
2: おおむね順調に進展している
VCPは細胞内の主要なATPaseであり、我々が合成したVCPのATPaseの特異的な阻害剤KUSが、ストレス下でのATPの減少を抑制するというこれまでの実験結果から想定したように、細胞は、自身の対応としてVCPのATPase活性を抑制する手段を有していることが証明されつつある。その1つが飢餓時での応答で、PC3などの癌細胞では、アミノ酸飢餓時に、VCPをドット状の構造物に変換することで、アミノ酸飢餓に対応していることが明らかになった。即ち、VCPはこれまでに知られていないアミノ酸センサーの機能を持ち、アミノ酸飢餓に対して抵抗するシステムを構成することが示唆された。一方、KUSにより、パーキンソン病、心筋梗塞の治療の可能性も明らかになった。以上のように、本研究は、概ね順調に進展している。
平成30年度の実験結果を踏まえ、論文に必要な追加実験を行うと同時に、当初平成31年度に予定した、VCPによる近接していない細胞間のエネルギー交換の可能性の検証、さらには、別の虚血性疾患である脳梗塞のモデル動物に対してKUSの治療効果の検証を行う。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件) 産業財産権 (2件)
Heliyon
巻: 4 ページ: e00544
10.1016/j.heliyon.2018.e00544
Sci Rep.
巻: 4 ページ: 949
10.1038/s41598-018-19264-7.
Cell Rep.
巻: 21 ページ: 2628-2638
10.1016/j.celrep.2017.10.113.
EBioMedicine.
巻: - ページ: 225-241
10.1016/j.ebiom.2017.07.024.
日本生物学的精神医学会誌
巻: 28 ページ: 153-158
http://www.funcbiol.lif.kyoto-u.ac.jp/