研究課題
申請者は、乳がんにおいて高頻度に発現亢進を認める新規エストロゲン受容体(ER)活性化制御分子BIG3が、エストロゲン(ER2)依存性乳がんにおいて、どのような病態生理機能を果たし発がん進展に寄与しているのか、BIG3によるER活性抑制因子(PHB2)の制御機構およびBIG3ノックアウトマウスを用いた生理機能を解明し、最終的には、重篤な副作用を起こさないBIG3-PHB2相互作用阻害治療薬を開発し、患者や患者家族のQOLに大きく寄与する新たな治療指針の提言を目標としている。本研究期間においては、BIG3が同定当初には分からなかったが、セリン/スレオニンプロテインホスファターゼPP1αとの結合モチーフが保存されていること、また他のBIGファミリータンパク質にて認められるA-kinase achoringモチーフ(PKA、PP1との複合体を形成して、scafoldingとして機能するタンパク質のモチーフ)をBIG3も保存されていることから、BIG3がセリン/スレオニンプロテインホスファターゼPP1αの調節サブユニットとして機能し、体細胞変異もメチル化も認められないエストロゲン受容体(ER)活性抑制因子PHB2(Prohibitin2)をその基質として結合するという仮説を立て、その証明を進めている。具体的な検証項目としては、1. BIG3のPP1α調整サブユニットとしての機能解析、2. PHB2を標的としたキナーゼの同定・リン酸化部位の同定と意義解明、3. BIG3/PHB2複合体のミトコンドリアにおける機能解明およびBIG3新規結合タンパク質の探索、4. BIG3/PHB2相互作用阻害ペプチドおよび阻害化合物の開発、5. 乳がん臨床検体収集と大規模検体を用いた免疫組織染色と相関解析、6. BIG3ノックアウトマウス解析、の6点である。当該年度においては、上述の検証項目のうち1.2.4.について遂行した。
1: 当初の計画以上に進展している
当該年度においては下記の通り成果を上げている。①②ER陽性乳癌細胞において BIG3はPP1αおよびPKAと複合体を形成し、エストロゲン依存性にPKAによってS305, S1208にてリン酸化されて、そのPP1α阻害活性がキャンセルされることがわかった。その結果、PP1α脱リン酸化酵素活性が亢進して、基質であるPHB2のS39のリン酸化が脱リン酸化に導かれる。このS39のリン酸化は、PKCαによってエストロゲン依存性にリン酸化され、PHB2の抑制活性に必須で有った。以上のことから、BIG3-PKA-PP1α複合体によるPHB2の脱リン酸化は抑制因子の新しい不活化機構であることを明らかにした。④先行研究により、申請者らはBIG3-PHB2相互作用を標的としたBIG3-PHB2結合阻害ペプチドを見いだし、BIG3から解放されたPHB2のER抑制機能の再活性化を利用した治療方法を開発した。さらに臨床応用の観点からこのペプチドのPHB2の結合部位がαヘリックス構造を示すことから、化学内架橋ペプチド(stERAP)の開発に成功した。stERAPは、立体構造の維持やプロテアーゼ抵抗性向上を導く。さらに、stERAPは乳がん細胞同所性移植ヌードマウスを用いたin vivo抗腫瘍効果も週に1度の静脈投与にて完全なエストロゲン依存性乳がんを導くことは明らかにした。
前年度までの成果をもとに、BIG3/PHB2相互作用阻害ペプチドの継続および本研究期間中に収集した乳がん臨床検体および既に収集済みの予後の明らかな1000症例を対象にBIG3とPHB2の発現を免疫組織染色および臨床病理学的所見との相関解析をすすめてる。特にPHB2のリン酸化とBIG3発現に関係について、予後などの臨床情報との相関解析を行い、バイオマーカーとしての評価およびBIG3ノックアウトマウス解析を行い、それによりBIG3の生理学的意義の解明を推し進め、引き続き研究を続行する。
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Scientific Reports
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Nature Communications
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