研究課題/領域番号 |
16H05154
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
花田 俊勝 大分大学, 医学部, 教授 (10363350)
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研究分担者 |
花田 礼子 大分大学, 医学部, 教授 (00343707)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 遺伝学 / 脳神経疾患 / RNA |
研究実績の概要 |
本研究は、RNAキナーゼ分子CLP1のキナーゼ活性欠損ノックインマウスと、ヒトCLP1変異をもつ橋小脳低形成患者より見出された異常なRNA断片が、実際に疾患発症に関与するか検証を行う。また、複数種のRNA断片が見出されているが、その中で最も疾患との関与が高いものはどれかを確認する。当初の計画では、RNA断片を発現する疾患モデルマウスの作成を目指していたが、RNA断片の細胞毒性のためかモデルの樹立に至らなかった。そこで、受精卵1細胞期より胚発生が観察可能であり、神経の発生異常を検討するうえで有益性の高いゼブラフィシュモデルの実験系を導入した。その結果、チロシンtRNA前駆体から生じる断片の1つに細胞毒性があることを発見した。この断片を神経細胞株やゼブラフィッシュ胚に導入すると、p53依存性の神経細胞死が誘導されることが判明した。現在、その分子機構を解明するため、本RNA断片に結合する分子の探索を行っている。 CLP1と同様にRNAキナーゼ分子として知られているNOL9について、キナーゼ活性欠損ノックインマウスを作成し解析を進めている。本分子は核小体に存在することからリボソームRNAの生合成に関与すると考えられており、実際in vitroの研究からその関与が報告されている。しかしながら、これまでの我々の研究では、キナーゼ活性欠損ノックインマウスにおいて明らかな表現型を認めていない。今後さらに詳細な検討を行う。 遺伝性神経変性症候群である橋小脳低形成の原因遺伝子はCLP1以外にも多数報告されている。その中の原因遺伝子とされるexosome複合体の構成分子EXOSC2, EXOSC8と、さらにVRK1分子の遺伝子ノックアウトゼブラフィッシュを作成した。今後、これらのモデル動物の解析をすすめることでRNA代謝異常と神経変性との関連性について研究をすすめる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CLP1変異により生じ神経変性を惹起すると予想されたRNA断片について、当初マウスモデルの作成に着手したが、その樹立が困難であったため、ゼブラフィッシュモデルに変更して解析を進めている。本モデルを用いて、疾患に関与するRNA断片種の同定に成功した。さらにこの結果をもとにプロテオミクスのエキスパートとの共同研究を行い、本RNA断片種に結合すると思われる候補分子の探索を行っている。また、CLP1以外の橋小脳低形成の原因遺伝子でありRNA代謝に関与する分子について遺伝子ノックアウトゼブラフィッシュモデルの作成を行った。CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集により順調にモデルが完成し、現在表現型および病態分子機構の解明を進めている。CLP1に関して、ヒト変異ではそのキナーゼ活性に影響を与えない部分に変異が生じている。CLP1はtRNA前駆体スプライシング酵素複合体中の一構成要素であり、そのヒト変異により酵素複合体中のタンパク質間結合に影響が生じると考えられているが詳細は不明である。そこで、我々はヒト患者と同様の遺伝子変異をもつマウスモデルを作成すべく、CRISPR/Cas9によるノックインマウス作成に着手し、樹立に成功した。今後、本モデルを用いてヒトCLP1変異と疾患発症との関連について検討を行う。NOL9について、現在キナーゼ活性欠損ノックインマウスの解析をすすめている。その解析にはin vitro RNA kinse assayが必須であるが、RI標識に変わり蛍光で標識されたRNAを用いることで簡便化したアッセイ系を樹立した。現在、NOL9のin vivoにおけるRNAキナーゼ活性の意義について解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトCLP1遺伝子変異による橋小脳低形成などの遺伝性神経変性疾患を解析する上で、受精卵1細胞期よりその発生が可視化できるゼブラフィッシュモデルは非常に有用であることがわかった。また、CRISPR/Cas9によるゲノム編集による遺伝子ノックアウト、さらにTol2トランスポゾンシステムによるトランスジェニックの作成についても実施可能な体制ができた。しかしながら、ゲノム編集による一塩基変異など実際にヒト疾患において認めるような遺伝子変異を導入する技術はまだ困難な状況である。本研究期間内にぜひともこの技術を確立したい。マウスモデルにおいても、ゼブラフィシュ同様に一塩基変異等のゲノム編集はまだ当方の研究室では不安定である。今回、様々な工夫をすることで高効率に一塩基変異マウスが作成できることを経験した。この成果をもとに、CLP1以外の遺伝性神経変性疾患症候群の原因遺伝子とされる分子についてマウスモデルの作成を積み重ね、本技術の確立を行いたい。
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