研究課題
アテローム血栓症の発症機序の解明を目的として、プラーク破綻と血栓の形成・増大機序について、病理形態学・代謝系変動・レオロジーの観点から融合的な検討を進めている。血栓の形成・増大にはプラークの組織性状・成分が大きく寄与するため、血栓形成能の高いプラークのバイオマーカーについて検討を進めた。これまでに低酸素環境のプラークは凝固活性が高く、これは動物モデルにおいて18F-FDG取込みを指標としたPET画像で可視化できることを報告してきた。しかし心筋や縦隔組織も18F-FDG取込みが高く、冠動脈プラークの評価には不適とされている。そこで心筋組織、健常動脈、動脈硬化病変の3者について網羅的代謝解析を行い、動脈硬化病変のみで高濃度に存在する代謝産物6種を見出した。これらについて、心筋、血管組織での代謝系路および局在性について検討を進めた。またアイソトープ標識を用いて、アセテートの動脈硬化巣への取込みを検討した。これらを踏まえた画像イメージングへの応用展開についての検討を進めている。次に血栓性閉塞の機序を明らかにする目的で、急性心筋梗塞患者305例から血管内治療時に採取された吸引血栓標本を用いて、その病理組織性状を検討した。血栓はすべて急性期の血栓像が主体であったが、191例(63%)において白血球の崩壊像や血栓の器質化像など、血栓形成から数日以上経過した血栓像が観察された。またこれらの症例では心筋障害が強く、治療後6ヵ月での予後が不良である傾向が見られた。動物モデルの検討では、血管狭窄~下流域のプラークには破綻(びらん)と壁在血栓が観察されるが、閉塞性血栓に至る頻度は少なく、血栓の増大には末梢塞栓による血流変動と凝固系(外因系および内因系)の関与が大きいことを確認した。
2: おおむね順調に進展している
本年度はプラーク性状を反映したバイオマーカーの探索と、これまでの吸引血栓標本の解析を主に行った。動脈硬化病巣、健常動脈と心筋組織の網羅的代謝解析において、動脈硬化巣において特異的に増加している代謝産物6種が確認できた。これらの中から、血栓形成能の高いプラークの画像イメージングに応用可能な代謝物の検討を進めており、バイオマーカー探索に期待が持てる結果と考えている。吸引血栓標本を用いた検討では、これまで病理組織学評価を進めてきた急性心筋梗塞305症例について臨床病理学的解析を行った。急性心筋梗塞患者の約6割は、プラーク破綻から数日以上経過して血栓性閉塞が起きていること、また時間の経過した血栓が観察された症例群では治療後の予後が不良であることも確認しえた。この結果は、海外での報告とも矛盾しないもので、血栓の増大機序がイベント発症に極めて重要であることを確認する内容である。また動物モデルの検討でも、この病態を模倣したプラーク破綻モデルができており、詳細な解析を行う予定である。
新たに見出した動脈硬化病変に特異的に増加している代謝産物に着目し、血栓形成能の高いプラークの同定および画像バイオマーカーとしての可能性について検討を進める。またMRI画像を用いた解析も併せて行う。冠動脈吸引血栓の病理組織学的解析結果と、冠動脈内近赤外分光法・核磁気共鳴画像法などのプラークイメージングを対比し、血管内イメージング法による血栓形成能の高いプラークの診断法の改良を検討する。血栓の増大機序について、動物モデルと血流チャンバーを用いた系で検討を進める。流体力学的因子に加えて凝固系因子(外因系・内因系)の関与を詳細に検討する。これまでに多くの凝固系阻害因子について血栓増大を抑制する結果を得ているが、出血時間の延長が軽度の阻害因子を探索し、より安全性が高い抗血栓治療への展開を模索する。
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