研究課題
クローン病や潰瘍性大腸炎に代表される炎症性腸疾患は、腸粘膜の慢性炎症を主徴とする原因不明の難治性疾患である。わが国の患者数は年々増加しておりH25年には20万人を超えた。炎症性腸疾患の病態においては、Th17細胞やTh1細胞などがエフェクター細胞として炎症を惹起しており、一方、制御性T細胞(Treg細胞)が炎症を抑制していることが知られている。DNAM-1はT細胞をはじめとする免疫細胞に発現する活性化受容体である。私達はこれまでにDNAM-1のリガンドがCD155とCD112であることを同定し、DNAM-1とリガンド結合によって惹起される免疫応答が、自己免疫疾患やGVHDなど様々の病態に関与していることを示して来た。一方、TIGITは、DNAM-1とリガンド(CD155とCD112)を共有する抑制性受容体として同定された。さらに、最近、TIGITとリガンドの結合がTreg細胞の免疫抑制機能を促進することが報告された。本研究では、リガンドを共有している活性化受容体DNAM-1と抑制受容体TIGIT、CD96が協調して、ブレーキとアクセルのようにTreg細胞を正負に制御しており、活性化受容体とリガンドの結合を阻害することで、抑制受容体によるTreg細胞の免疫抑制機能が促進され、炎症性腸疾患の病態が改善するという仮説をたて、これを検証する。DNAM-1、TIGIT、CD96によるTreg細胞の機能制御と炎症性腸疾患における役割を解析する目的で、1) TIGITノックアウトマウス 2) CD96ノックアウトマウス 3) DNAM-1 floxマウス 4) TIGIT floxマウス 5) CD96 floxマウス 6) Treg特異的DNAM-1ノックアウトマウス7) Treg特異的TIGITノックアウトマウス 8) Treg特異的CD96ノックアウトマウスを樹立する必要があるが、28年度に1)~3)までのマウスを樹立した。また、特異抗体投与による炎症性腸疾患の治療効果の解析のために、樹立した抗マウスDNAM-1中和抗体(TX42)ハイブリドーマから大量の抗マウスDNAM-1抗体を精製した。
2: おおむね順調に進展している
DNAM-1、TIGIT、CD96によるTreg細胞の機能制御と炎症性腸疾患における役割を解析する目的で、1) TIGITノックアウトマウス 2) CD96ノックアウトマウス 3) DNAM-1 floxマウスの3種類のマウス系統を、順調に樹立した。これに、以前に樹立していたDNAM-1ノックアウトマウスを加えて、DNAM-1、TIGIT、CD96の各欠損Treg細胞のin vitroの機能解析、ならびに細胞移入実験によるin vivoの機能解析の準備はできた。さらに、今後は TIGIT floxマウスとCD96 floxマウスを樹立し、これらのマウスならびにDNAM-1 floxマウスをFoxp3-CREマウスと交配して、Treg特異的DNAM-1ノックアウトマウス、Treg特異的TIGITノックアウトマウス、Treg特異的CD96ノックアウトマウスを樹立する計画である。
DNAM-1、TIGIT、CD96によるTreg細胞の機能制御と炎症性腸疾患における役割を解析する目的で、H29年度は、さらにTIGIT floxマウスとCD96 floxマウスを樹立する。また、H28年度に樹立したDNAM-1 floxマウスならびに新たに樹立するTIGIT floxマウスとCD96 floxマウスをFoxp3-CREマウスと交配して、Treg特異的DNAM-1ノックアウトマウス、Treg特異的TIGITノックアウトマウス、Treg特異的CD96ノックアウトマウスを樹立する。また、DNAM-1特異抗体による炎症性腸疾患の治療効果の解析のために、すでに私たちが樹立した抗マウスDNAM-1中和抗体(TX42)ハイブリドーマから大量の抗マウスDNAM-1抗体を精製する。さらに、抗ヒトDNAM-1抗体に関しては、既存の抗ヒトDNAM-1中和抗体 (TX25)よりも親和性が高く、リガンド結合阻害効率の高いクローンを新たに樹立する。加えて、TIGITに対する特異的中和抗体も作製する。以上、材料がそろったところで、DNAM-1、TIGIT、CD96各遺伝子欠損Treg細胞の機能をin vitro、in vivoの両側面から解析し、Treg上のDNAM-1、TIGIT、CD96の機能を明らかにする。さらに、Treg特異的DNAM-1ノックアウトマウス、Treg特異的TIGITノックアウトマウス、Treg特異的CD96ノックアウトマウスに炎症性腸炎を誘導したり、炎症性腸炎を誘導した野生型マウスに特異的中和抗体を投与したりすることによって、炎症性腸炎病態におけるTreg上のDNAM-1、TIGIT、CD96の機能を明らかにする。さらには、ヒト化マウスを用いて、マウスで得られた知見をヒトTreg細胞でも検証し、マウスで得られた知見がヒトに応用できるかどうかを検討する。本研究によって得られた成果は、炎症性腸疾患の分子標的療法への臨床応用が期待できる。
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