クローン病や潰瘍性大腸炎に代表される炎症性腸疾患は、腸粘膜の慢性炎症を主徴とする原因不明の難治性疾患である。免疫応答を抑制し、腸管のホメオスタシスを保つ制御性T細胞は、炎症性腸疾患の病態制御に重要な役割を担っている。 DNAM-1はT細胞をはじめとする免疫細胞に発現する活性化受容体である。これまでに私達はDNAM-1のリガンドがCD155とCD112であることを同定し、エフェクター免疫細胞上のDNAM-1とリガンドとの結合が、種々の免疫応答を惹起することを明らかにしてきた。一方、DNAM-1は制御性T細胞にも発現しているが、その機能は不明であった。本研究では、制御性T細胞上のDNAM-1の機能を明らかにし、炎症性腸疾患の病態制御への応用の可能性を検討することを目的とした。 制御性T細胞の機能を生体内で観察するために、系統の異なるマウスへ野生型もしくはDNAM-1欠損制御性T細胞をエフェクター細胞と共に移入した結果、DNAM-1欠損制御性T細胞は、野生型制御性T細胞に比較して、その炎症病態を強く抑制した。また、炎症局所から分離したDNAM-1欠損制御性T細胞ではFgl2やCTLA4などの遺伝子発現が亢進しており、DNAM-1欠損により制御性T細胞の抑制機能が増強していることが明らかになった。中和抗体を用いて、制御性T細胞上のDNAM-1とリガンド結合を阻害すると、制御性T細胞が活性化し、エフェクター細胞の増殖が抑制されることも観察された。さらに、シグナルレポーターアッセイより、このDNAM-1とリガンド結合阻害による制御性T細胞の免疫抑制能増強は、DNAM-1とリガンド共有するTIGITシグナルに依存するものであることが明らかになった。 マウス炎症性腸炎モデルを用いた解析では、抗DNAM-1中和抗体投与により病態の軽減を認めるデータも得たが、これについては今後も継続的な解析が必要である。
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