研究課題/領域番号 |
16H05175
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
片岡 寛章 宮崎大学, 医学部, 教授 (10214321)
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研究分担者 |
竹田 直樹 熊本大学, 生命資源研究・支援センター, 助教 (90304998)
石田 洋一 明治薬科大学, 薬学部, 講師 (90510454)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | プロテアーゼ制御 / 腸管上皮細胞 / がん細胞浸潤性増殖 / HAI-2 / SPINT2 / HAI-1 / SPINT1 / 上皮完全性維持機構 |
研究実績の概要 |
上皮細胞膜上および細胞周囲微小環境におけるプロテアーゼ活性制御は、上皮組織の性状性維持にとって重要である。この制御に重要な役割を果たす上皮細胞膜結合クニッツ型セリンプロテアーゼインヒビターであるHAI-1とHAI-2、そしてその標的プロテアーゼの上皮組織およびがんにおける意義について、研究を遂行した。 1.条件付きHAI-2ノックアウトマウスを世界に先駆け作成し報告した。この結果、正常のHAI-2機能が腸管上皮細胞に必須で、その機能不全は腸上皮細胞間の接着分子(Epcam)の分解と接着分子複合体(Epcam/claudin7複合体)の不安定化をもたらし、腸管上皮機能障害によってマウスは致死となることを明らかにした。さらにこの現象がHAI-2標的蛋白分解酵素であるプロスタシンとマトリプターゼの活性制御異常によって生じることも明らかにした。このマウスモデルは、HAI-2遺伝子の異常による先天性重症下痢症の病態解明に必須のツールとなり、また論文で報告したマトリプターゼ阻害剤は治療薬開発に寄与する。論文は掲載誌 Commun. Biol.(Nature Researchが創刊)の創刊一周年記念論文のうちの一つに選ばれた。 2.HAI-1とHAI-2の細胞内局在を決めるメカニズム、またその標的プロテアーゼの一つであるマトリプターゼの局在と活性化に与える影響についての検証をすすめた。 3.培養ヒト口腔扁平上皮癌細胞株を用いた検討により、プロスタシンががん抑制因子として働くことを見出した。 4.HAI-1およびHAI-2の標的酵素は強い肝細胞増殖因子(HGF)活性化能を有することが知られている。HGFはMET受容体を介してがんの悪性形質に寄与することも知れらている。HAIとこれらの標的酵素のがん進展における意義を解析するために、ヒト化HGF SCIDマウスの導入とこれを用いた検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.条件付きHAI-2ノックアウトマウスを世界に先駆け作成し、正常のHAI-2機能が腸管上皮細胞に必須で、その機能不全はヒトにおけるタフト形成性腸炎と同様の形態と致死的腸管上皮機能障害をもたらすことを報告した。 2.上記マウス腸管を用いたオルガノイド培養を行い解析したところ、HAI-2欠損の結果Epcamの分解が亢進し、Epcam/claudin7複合体が不安定化することを明らかにした。さらにこの表現型がプロスタシン遺伝子ノックアウトによりキャンセルされることを見出した。また米国の共同研究者とマトリプターゼの特異的阻害剤を合成し、HAI-2欠損オルガノイドの表現型がマトリプターゼ阻害によって軽減されることも明らかにし、腸管上皮におけるHAI-2/プロスタシン/マトリプターゼ系の重要性を証明した。 3.培養細胞を用いた検討から、HAI-1のPKDドメインがHAI-1およびマトリプターゼの細胞膜上局在に必須であることを見出した。また、プロスタシンががん抑制因子として働く可能性を見出巣とともに、神経膠芽腫においてはHAI-2が遺伝子メチル化によって強く抑制されており、その再発現が浸潤性増殖を抑制することを証明した。 5.マウスHGFはヒトMETにシグナルを入れない。ヒトがん細胞におけるHAIsとこれらの標的HGF活性化酵素の意義をin vivoで解析するためにはヒト化HGF(hHGF)免疫不全マウスを用いる必要がある。そのためhHGF SCIDマウスを導入した。 HAI-2遺伝子変異マウスの作成とその解析が順調にすすみHAI-2の生体内意義とその分子機構を明らかにできたこと、また海外研究者との共同研究の結果in vivoで使用可能なマトリプターゼ特異的阻害剤の開発に一定の目途がたったことから、当初の計画以上に進展していると評価が出来る。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに樹立したノックアウトマウス系統とその上皮オルガノイド、HAIノックアウト細胞株、さらには様々な変異コンストラクト発現ベクターを用いて、以下の検討を進める。 1.これまでの研究成果から、HAI-2は上皮細胞の小胞体・分泌経路においてセリンプロテアーゼ管理を行い、上皮細胞機能恒常性において根源的に重要な役割を有しているのではないかという仮説をたてている。上皮細胞におけるHAI-2のプロテアーゼ活性管理の役割をより詳細に検証し、その全容を明らかにする。 その一環として、細胞内でHAI-2が結合しているタンパク(プロテアーゼを推定しているがそれ以外の物も含め)を免疫沈降法および質量分析法によって網羅的に解析し、重要な新規結合タンパクを同定し、新たな上皮完全性維持機構としての膜結合プロテアーゼインヒビター(HAI-1とHAI-2)の生物学的意義を確立する。 2.プロスタシンにはこれまで想定されていた機能以外の重要な機能が存在する可能性が高い。細胞においてプロスタシンと会合している新規機能タンパクの網羅的解析を上記と同様に行う。 3.HAI-1とHAI-2の細胞内局在を規定する分子メカニズムを明らかにする。 4.作成したHAI-2変異マウス腸炎モデルを用いて、HAI-2変異患者の治療薬として、マトリプターゼやプロスタシンの特異的阻害剤が応用可能であるかどうかについて、基礎的検討を開始する。 5.hHGF SCIDマウスを用いた解析を開始する。HAI発現を人工的に操作したヒトがん細胞株だけではなく、患者がん組織由来のがん組織(PDX)やがんオルガノイドの移植実験を行い、HGF活性化酵素阻害剤の影響を検証する。
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