研究課題/領域番号 |
16H05176
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
谷本 昭英 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (10217151)
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研究分担者 |
川口 博明 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 特任准教授 (60325777)
三好 和睦 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 教授 (70363611)
小澤 政之 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (90136854)
三浦 直樹 鹿児島大学, 農水産獣医学域獣医学系, 准教授 (80508036)
堀内 正久 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (50264403)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マイクロミニピッグ / 体細胞クローン / 遺伝子改変 / アルツハイマー病 / 疾患モデル動物 |
研究実績の概要 |
遺伝子改変動物の元となる最適の表現型(白毛、雄)を持つマイクロミニピッグの選択方法の開発とクローン動物作出方法の効率化、最適化のための基盤研究を行った。すでに黒毛の雌のクローンマイクロミニピッグの作出には成功しているが、血管確保や薬剤反応の確認には白毛個体が適している。また、交配により遺伝子改変個体を効率的に作出するためには、雄のホモ遺伝子改変動物の作出が望ましい。そのために、マイクロミニピッグの白毛遺伝子および雄雌判定の遺伝子を解析する方法を開発した。また、体細胞クローン作出方法の効率化のためマイクロミニピッグの性周期および発情期間を正確に把握した。 マイクロミニピッグの毛色には、白色、黒色、銀色がある。白毛はI遺伝子座のc-kit遺伝子変異を有する。優性白色対立遺伝子I(I)のホモ接合型(I/I)もしくはヘテロ接合型(I/i)、さらに優性白色I遺伝子座では、kit遺伝子が重複し、イントロン17の最初の塩基GがAに変異していることを利用し、G:Aの比率(1:1ホモ、2:1ヘテロ)でホモとヘテロ接合体を区別でき、白毛個体の選択が可能であった。歯のエナメル質形成に関与する Amelogenin 遺伝子は、性染色体・XおよびY染色体上に座位している。この遺伝子の Exon 領域ないし intron 領域の塩基配列にある多型を利用してマイクロミニピッグ Amelogenin 遺伝子の検出による雌雄の判別法を開発した。 家畜豚の発情兆候は、乗駕、食欲減退、尾上げ、外陰部腫脹、粘液で判定している。マイクロミニピッグで、毎日の外陰部観察を行い、発情と思われる時には乗駕・許容検査により発情を判定した。許容検査は、雄個体の乗駕許容あるいはヒトの手による腰の押圧許容および挙尾などにより判定した。結果、マイクロミニピッグは約20日間の性周期であり、発情期間は2~5日程度であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
体細胞クローン動物の作出およびクローン動物作成技術を基盤にした遺伝子改変動物の効率的な作出には、畜産ブタの新鮮な卵子の安定的な供給が不可欠であり、鹿児島県内の食肉屠殺場の協力のもと、必要時に入手している。家畜ブタの屠殺は通年で行われているが、夏季においては気温上昇のために卵巣の状態が良好ではなく、健康な卵子の採取には不適切なほど傷んでいることが判明した。夏季に採取した卵子では、移植可能な胚の作出効率が著しく低下していることが判明し、このことは事前に予測することは困難であった。他のブタの研究施設(静岡)においては、同様の状況は確認されておらず(personal communication)、鹿児島特有の気候の問題と推定された。 白毛遺伝子を有する体細胞から核移植胚を作製し、白毛を有するクローン個体の作出を3回試みた。このうち、1回は着床にも至らず、エコー検査による妊娠確認(心拍動の検出)が1回、流産が1回であり、いずれも生体を得ることはできなかった。白毛遺伝子を有する体細胞による体細胞クローンマイクロミニピッグの作出効率が、黒毛個体由来の細胞からの作出より相当低い原因は今のところは不明である。
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今後の研究の推進方策 |
新鮮な卵巣の入手のため家畜豚を空調設備のある施設で飼養する、または空調設備の完備された大学施設において飼育することは現実的ではなく、気温上昇の見られる7月以前になるべく頻回に、胚移植を実施できる体制を構築する。 白毛および雌雄判定の遺伝子解析の方法を確立した。今までマイクロミニピッグから得た胎児腎細胞などの多種類の体細胞ストック(雄雌、毛色は不明)の雌雄、毛色を解析し、雌雄および毛色の別の判別下に移植胚を作製し、各遺伝子型による体細胞クローン動物の作出効率を比較することで、最も高効率の組み合わせを検討する。 マイクロミニピッグにAlzheimer病の原因遺伝子変異型 presenilin 1(PSEN) と変異型amyloid precursor protein(NL)を発現させ、モデルブタを作製することが目的である。モデルブタの作製には、マイクロミニピッグから体細胞を採取し、初代培養ののち、PSEN と NL 発現ベクターを導入し、薬剤選別により遺伝子導入安定株を得る。その細胞をドナーとする体細胞核移植を行い、クローンブタを得る。出生仔は PSEN と NL を同時に発現すると考えられ、海馬領域の神経細胞死を生じ、Alzheimer 病様の症状を呈すると見込まれる。核移植の元になるドナー体細胞の選択が重要であるが、ブタ細胞には、核移植に適切でないものがあり、核移植後に移植胚が発生途上で脱落し、出生まで至らないことがある。この原因は不明であり、核移植に適した細胞の判断も難しい。多数の発現ベクターと体細胞を用いて、核移植、胚発生に適した条件を検討する必要があり、平成29年度は、PSEN と NL の発現に最適な発現ベクターの開発と最適なドナー細胞の選択を終了させる。同時に、胚移植のための母豚の繁殖生理をさらに理解し、より効率の高いクローン動物と遺伝子改変動物の作出を目指す。
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