研究課題
NLRP3インフラマソーム活性化の細胞内制御因子の同定を目指して、低分子阻害剤スクリーニングを行うことにより、非受容体型チロシンリン酸化酵素であるBruton'sチロシンキナーゼ(BTK)がNLRP3インフラマソームの活性に必須の分子であることを見出した。更にマウス脳梗塞モデルに対して、慢性リンパ性白血病治療薬であるBTK阻害剤イブルチニブを投与したところ、虚血周囲部のカスパーゼ1の活性化が抑制され有意な神経学的所見の回復を認めた(伊藤ら Nature Communication 2015)。本研究ではBTKはNLRP3をリン酸化することでインフラマソームの活性を制御しているとの仮説の下に研究を進めた。先ず、CRISPR/Cas9システムを用いてBTK-KO THP-1細胞クローンを作成した。この細胞クローンではNLRP3インフラマソームの活性化が低下していることが確認された。更にPhos-tag Western blotによりBTKの発現消失によりNLRP3のリン酸化が低下することを見出した。そこで私達はLPS刺激マウス骨髄マクロファージのNLRP3を免疫沈降法により回収し、質量分析によりNLRP3のリン酸化部位の同定を試みた。しかし全長のNLRP3アミノ酸配列をカバーすることは予想以上に困難であり、今後はTHP-1細胞株からのNLRP3の回収を試みる予定である。一方、本研究と並行して質量分析により3種類のNLRP3結合因子を同定した。いずれもインフラマソームとの関連は報告されていないため、CRISPR/Cas9システムによりこれらの個々の因子の欠損マウスマクロファージクローン(J774-1細胞)を作成した。非常に興味深いことに、これらの因子にはNLRP3インフラマソームの活性の促進あるいは抑制因子が含まれていることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
当初の目的であるNLRP3リン酸化修飾については技術的な改善が必要であるが、対象細胞をマウス骨髄マクロファージからヒト単球細胞株THP-1に変更する等、既に方法の改善に着手している。THP-1細胞でも骨髄マクロファージと同様にシグナル1によりNLRP3がリン酸化されることをPhos tag Western blotで確認できた。また抗NLRP3単クローン抗体のクローンを変更することにより免疫沈降の効率を改善できることが明らかとなった。一方で、NLRP3と相互作用する細胞内分子を探索することにより、これまでに知られていないユニークなNLRP3インフラマソームの形成制御因子を複数同定しつつある。これまでの検討で、これらの因子はNLRP3インフラマソーム活性誘導時のNLRP3の核周辺部への移行に関与することが明らかになりつつある。これらはNLRP3インフラマソームの形成において新たな概念につながる可能性がある。これらの状況を総合的に判断し(2)と判断した。
先ず、NLRP3リン酸化の同定はTHP-1細胞株により大量のNLRP3を準備し、再度質量分析を試みる。その際コントロールとしてBTK-KO THP-1細胞クローン由来のNLRP3を分析する。一方、3種類のNLRP3結合因子に対しては既に個々の因子欠損J774-1細胞クローンは樹立が終了している。今後はこれらの因子がNLRP3インフラマソームと分子複合体を形成しているか否か、超解像および電子顕微鏡で解析する。またNLRP3インフラマソーム形成の場であるミトコンドリアに注目し、個々の因子と結合するミトコンドリア因子を明らかにする。今年度末よりCRISPR/Cas9を用いて上記因子のマクロファージ特異的欠損マウスの作成を開始し、出来るだけ早期にin vivo炎症モデル実験を行う。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 2件)
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